室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

膝の手術──痛みには、まずは手術以外の方法で(52回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査してはいけない手術
膝の手術──痛みには、まずは手術以外の方法で
膝トラブルの「公然の秘密」

 膝の故障はスポーツ選手にはよくあるトラブルです。一般論として、激しい運動をしていると筋肉を痛めたり、靱帯、あるいは骨や軟骨を痛めたりする、ということがあるのですが、特に膝は体全体の重量を受け止めるため、大きな負担がかかる部位となっており、それだけ故障の可能性も高いのです。
 膝関節のトラブルには、半月板障害、膝靱帯損傷、膝蓋骨脱臼、膝関節捻挫などがありますが、そうした問題に対しては、問診や身体検査を行ったり、X線検査やCT検査、MRI検査などを行ったりするのが通常の治療です。さらに、最近では関節の中に胃カメラに使われるような内視鏡を入れて内部を観察する検査を行うこともできるようになっています。
 問題が特定できたならば、サポーターなどで固定をしたり、痛みを取り除く薬などによる治療を行ったりします。場合によっては関節の手術をすることもあります。
 こうした膝のトラブルにおいて、日本の医師から「医者は皆意味がないと知っていながらやっている手術がある」という声を私は聞いたことがあります。こういうのを公然の秘密というのでしょうか。

手術は医療機関の収入源

 世界的には、こうした膝の痛みを起こすようなケースのうち、特に半月板に損傷があるケースについて、関節のひっかかりや痛みがないならば、膝の関節鏡を使った検査や手術を行わないようにとするのが一般的になっています。手術をしても膝の機能を改善する効果がなく、場合によってはむしろ有害である可能性さえある、という点が問題視されています。
 先程「公然の秘密」と書きましたが、これは日本の医師たちの間では、実は意味がないと知っているにもかかわらず半月板の手術が頻繁に行われている状況にある、ということです。これは私が個人的に日本の整形外科医に聞いた話ですので、ムダと知りつつも半月板の手術を行っている医師がどれほどいるのかは定かではないのですが、ただ、そこに大きな問題があるのは事実であるようです。米国でも、膝関節の手術の有害性についての認識が広がっており、やめましょうと本当に公然と述べられているようになってきています。
 逆説的ですが、こうした発言がオープンに出されるということは、米国でも不必要な手術が多く行われていて問題視されている、ということではないでしょうか。とはいえ、日米間における向き合い方の違いは大きい、と感じます。
 米国では、手術をするかわりに運動をしたり、鎮痛薬を使うべきだとされています。それで結果的に問題なくなる可能性があるからです。そうした手術に頼らない方法で経過を見た上で、それでも関節がうまく動かなかったり、膝に痛みが出たりするときに、関節鏡を使った検査や手術を行うのはよいとしています。
 繰り返しになりますが、半月板損傷というトラブルは、わが国においても珍しいものではないのですが、なぜか日本の医療現場では手術が治療法として頻繁に選択されているという問題があるのです。ではなぜ、無意味だと分かっている手術が行われてしまうのでしょうか。はっきり言えば、お金の問題です。
 関節鏡を使った半月板切除術には15万円程度の医療費がかかるので、医療機関にとっては重要な収入源の一つとなってきます。そうした背景から、過剰に手術が行われているという声を聞きます。
 ちなみに、膝の痛みに対するMRI検査についても、チュージング・ワイズリーではリハビリをして治らないときに限るべきだとしています。過剰な検査や過剰な治療について考えるには良いケースでしょう。