室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(104回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)第三部 〝無駄な医療〟を追放しよう

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第104回】

第三部
〝無駄な医療〟を追放しよう

米国で始まった無駄な医療撲滅キャンペーン。
患者にとっても、医師にとっても、
医療費の増大に悩む国にとっても意味のある動きだ。
ここでは、「Choosing Wisely」のような取り組みが
日本で起きにくい背景などを見ていこう。

第三部
 無駄撲滅運動は日本でも
 広がるか? 実現に立ちふさがる
 医師と患者のそれぞれの壁

 ABIM財団が、米国の医学会とともに発表した「Choosing Wisely」。そこで示された無駄な医療をガンとガン以外の疾患で見てきた。それぞれの学会がここまで具体的に指摘していることに、驚きを感じたのではないだろうか。
 ここで、ABIM財団が指摘している個々の医療をあらためて眺めると、「治る」という究極の目的に必ずしもつながらない「診断」「治療」「予防」には、ある共通したキーワードがあることに気づく。
 その一つは、「念のため」「万が一のため」と、不必要に検査を重ねる「過剰診断」である。健康な人を対象とした前立腺特異抗原(PSA)検査、あるいは腰痛の症状を訴えている人に対する、症状が始まって6週間以内の画像検査などだ。
 素人目には「やってもいいかもしれない」と思えるかもしれないし、実際に実施している医師も珍しくはない。それなのに、米国の医学会が無駄でやらない方がよいと認定したのは、仮に実施しても費用対効果が著しく低いためだ。

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 さらに、「過剰治療」の問題もあった。典型的なのは、風邪に対する抗菌薬だろう。
 抗菌薬は細菌にのみ存在する細胞壁の合成を阻害したり、細菌だけが持つ増殖のための機能を妨げたりするものだ。ところが、多くの風邪の原因となっているウイルスは細菌と同じ仕組みではない。ゆえに抗菌薬はウイルスには全く効果がなく、風邪に抗菌薬を使ったところで意味はない。過剰治療には副作用の問題も伴う。無用な治療は避けなければならない。
 画像検査そのものの負担も指摘されていた。CT検査やX線検査などの画像検査では、放射線による被曝が生じるので、検査自体が精神的、身体的に負担になる。あらゆる検査に言えることだが、受ける必要がなければ受けないに越したことはない。
 経済的な負担も無視できない。ABIM財団は子宮頸ガン検査のためのコルポスコピー(子宮鏡)やリウマチにおけるバイオ医薬品の使用などで、費用を抑制する意義を指摘した。これは、画像検査や投薬においても配慮すべき点になる。命が関わると、経済感覚がまひしてしまうものだが、費用対効果が薄弱であれば行わない方がよい場合もあるということは知っておきたい。

画像2


 医療の効果を裏づける根拠が、実は不足しているという問題もあり得る。変形性膝関節症にグルコサミンやコンドロイチンが効くと一般には思われているが、臨床検査で効果が証明されているわけではない。また、乳ガンへの強度変調放射線治療(IMRT)、前立腺ガンへの陽子線治療なども根拠が不十分と指摘している。一見、意味があるように見える診断、治療、予防でも本当に根拠があるのか、立ち止まって考える姿勢は大切だ。
 治療の頻度も過剰が発生しやすいところかもしれない。大腸ガンの大腸内視鏡の場合、一度検査したら次の検査のタイミングは10年後でいいと学会は述べている。似たような骨粗しょう症の検査でも、検査の間隔は10年に1回で十分と推奨していた。頻繁に検査を受ける背景には心配があるのかもしれないが、医療では時には自制も必要となる。
 米国の学会が出した推奨、非推奨をあらためて見ると、無駄を徹底的に省きつつ、意味のある医療を進めようとする気概に満ちている。一般向けに情報を分かりやすく出して、選択の指針にしてもらおうとする行動力には目を見張る。

(第104回おわり、第105回へつづく)

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