室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

歯科の治療──詰め物は安易に取り替えない(51回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査してはいけない手術
歯科の治療──詰め物は安易に取り替えない
変わる虫歯の治療事情

 厚生労働省の患者調査によると、2014年の調査日において虫歯の治療を受けているのは184万6000人。年によっていくらかの上下はありますが、ここ20年近くは150万~200万人で推移しています。歯科医院では患者に虫歯があれば汚れを除、穴が空いていれば詰め物で埋め合わせるというような治療をしていくことになります。また歯が欠けたり、何らかの損傷が起きたりしたときにも、同様に詰め物による補てつ治療を受けます。患者調査を見ると、補てつ治療を受ける人は200万人を超えています。
 歯の詰め物の素材はいろいろありますが、かつては水銀を含むアマルガムと呼ばれる金属で埋め合わせられることが一般的でした。いわゆる銀歯です。アマルガムは環境を汚染するといった理由から使われる機会が減っています。

 最近ではレジンと呼ばれるプラスチックのような樹脂素材で埋める方法も広がってきています。
 歯の詰め物は品質も向上しており、元の歯の色に近い色のレジンを入れることもできるようになっていることもあり、外見からは歯の詰め物をしているとはわからないほどです。耐久性も低くはなく、長期間にわたって安定的に歯の穴を埋め合わせることができるようになっています。
 歯の詰め物は、長く使っていれば取れたり、欠けたりすることもあり得ます。また安価な素材を使っていたり、今日のような良い素材がなかった時代に詰めたりしたものは、色が黒ずんでくるなど変色することもあり得ます。詰め物の取り替えを考える場合もあるでしょう。
 また、特に銀歯が避けられる傾向も強まっています。アマルガムは水銀を含んでいることから、安全性に不安を感じる向きもあり、できればレジンの詰め物に取り替えたい、と考える方も多くおられるようです。

いつ変えればよいのか?

 チュージング・ワイズリーでは、歯の詰め物については、古くなったからという理由だけで取り替えないように、としています。チュージング・ワイズリーのキャンペーンには歯科の団体も参加するようになっており、米国歯科医師会が、歯の詰め物の取り替えについての見解を述べているのです。
 関連する研究によると、詰め物が割れたり欠けたりした場合に修復することについては問題ない、とは統計的にも言えるのですが、銀歯からレジンへ取り替えるべきかという点については、結局のところ、アマルガムをそのままにしておくことの危険性を十分裏づけるようなエビデンスはないということが分かっています。さらに、レジンの方がやや虫歯になりやすいという報告もありますし、アマルガムを除去するときに水銀が気化してしまい、それを吸い込むのが危険という見解もあります。一方、レジンからレジンへという交換については研究としては十分な検証結果は出てきていないようです。
 古くなった詰め物を交換することの必要性については、医療機関は収入につながるために推奨したいものなのかもしれません。ですが、単に古いから交換するというのは、これまでの研究を洗いざらい調べた結果として、そうした選択肢は考えるべきではないと結論づけています。アマルガムの交換にはデメリットがありますし、そのほかの点からのメリットがないからです。
 結局、歯の詰め物を取り替える良いタイミングとして挙げられているのは、破損したり、詰め物の場所に別の虫歯ができたり、サイズが合わなかったりした場合です。詰め物の耐久性はものによりますので、そうした違いも踏まえて、単純に取り替えればいいという考え方は避けるべきだとされています。
 誘発需要という観点から考えると、必要もないのに詰め物を交換するのを歯科医院から提案されるという可能性はあり得ます。そうしたときには、破損したときなど必要なときだけ交換する必要があるのだという考え方があることを知っておくとよいでしょう。