室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

脂質異常症の薬──超高齢者にコレステロールを下げる薬は無用(42回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査してはいけない手術
脂質異常症の薬──超高齢者にコレステロールを下げる薬は無用
200万人を超える人が医療機関のお世話になっている

 脂質異常症は、コレステロールや中性脂肪の値が正常の範囲をはずれてしまう病気です。本来はコレステロールも中性脂肪も身体にとって欠かせないものなのですが、適正な量というものがあります。その範囲をはずれてしまうと、血管の壁が厚くなる動脈硬化の原因の一つになるなど、心臓や血管の病気につながってしまうのです。そのため早期に対策を取ることが必要と考えられています。
 厚生労働省の患者調査によると、2014年の調査日に医療機関での対応を受けた人は211万3000人に及んでおり、日本人にとってとくに重要な病気になっているといってもいいでしょう。日本の肥満問題は米国ほどではありませんが、それでも食の欧米化にともなって、脂質異常症はますます問題になってくると見られています。
 脂質異常症は、血液検査で脂質の数値を調べることから発見につながっていきます。調べる脂質とは、コレステロールや中性脂肪など。コレステロールには複数の種類がありますが、主にLDLコレステロールやHDLコレステロールの値が問題になります。
 LDLコレステロールもHDLコレステロールも、コレステロールとリポたんぱく質と呼ばれる粒子が組み合わさった物質です。肝臓からコレステロールを運ぶのがLDLというリポたんぱく質で、肝臓にコレステロールを回収するのがHDLというリポたんぱく質です。全身にコレステロールを運ぶLDLが多すぎると、動脈硬化を引き起こす要因になるのですが、反対にコレステロールを回収するHDLが十分にあれば動脈硬化をおさえることができます。
 そのため、LDLコレステロールの数値が高いと問題になります。140㎎/dL以上になると脂質異常症が疑われます。逆にHDLコレステロールは低いと問題で、40㎎/dL未満だと脂質異常症が疑われます。中性脂肪は内臓脂肪を増やすもとですから、こちらも高いと要注意です。150㎎/dL以上になると脂質異常症が疑われます。
 脂質異常症と診断されたら、まずは生活習慣の改善を行って、血液中の脂質の数字を正常化できるように対策をとることになるでしょう。場合によっては、スタチンなどの薬の使用を考えることになります。

高齢になるとむしろデメリットが目立つ

 しかし、米国医療ディレクターズ協会は、残りの人生が限られた段階になったら、安易にコレステロールを下げる薬を処方してはならない、と求めているのです。
 というのも、そもそも高コレステロールであったり、低HDLコレステロールだったりしても、70歳を超えた人にとっての死亡のリスクを高めるという根拠がまったく示されていないのです。さらに、コレステロールは動脈硬化の原因にはなるものの、心臓に血液を供給する冠動脈については、70歳を超えた年齢で問題が起こるのかどうか、はっきりしていません。心筋梗塞による入院や狭心症も同様です。むしろコレステロールの低い場合の方が、死亡率が高いという研究結果もあります。
 さらに、85歳以上になると、コレステロールを下げる薬を飲むことで、メリットよりもデメリットが目立つとも指摘しています。認知機能が低下したり、転倒が増えたり、神経や筋肉の病気を増やしたりする可能性があるからです。
 こうした研究結果を踏まえ、超高齢になった段階ではコレステロールを下げる薬は不要であると説明しています。