室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

水虫の薬──飲み薬は慎重に(40回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査してはいけない手術
水虫の薬──飲み薬は慎重に
皮膚のカビ・水虫

 いわゆる水虫は、全国で13万8000人が医療機関で治療を受けているれっきとした病気です(2014年、厚生労働省の患者調査)。白 はく 癬 せん 菌 きん と呼ばれるカビの一種が、足の皮膚の角質で増えて、炎症やかゆみといった症状を引き起こします。中には、足の爪で増える爪水虫と呼ばれる病気になる人もいます。爪で白癬菌が増えて、爪が白くなるなどの症状が現れます。
 水虫は足を清潔にして白癬菌の繁殖を防ぐほか、ドラッグストアで売っている塗り薬で治すのが一般的ではないでしょうか。薬で白癬菌の繁殖を抑えて肌の角質から追い出すのです。医療機関で診察を受け、水虫菌の有無を確認し、塗り薬や飲み薬をもらうこともできます。
 とりわけ爪水虫と呼ばれるタイプの水虫は、爪の中に白癬菌が入り込むため、塗り薬が効きづらいと考えられています。そのため、長期間にわたって飲み薬を飲むことがよくあります。

日本でも問題視される、漫然とした治療

 日本皮膚科学会が2009年に出した「皮膚真菌症診断・治療ガイドライン」ではその冒頭で、爪水虫ではない人に対して、延々と経口抗真菌薬を処方しているケースがある、と注意を促しています。真菌というのはカビで、経口抗真菌薬とは水虫の飲み薬です。爪水虫の治療として薬を飲み続けているけれど、実際には爪水虫ではなかった、ということがよくあるというわけです。 
 チュージング・ワイズリーでもまさにこの問題が指摘されています。米国皮膚科学会は爪水虫では真菌を確認しない限り、飲み薬を処方してはいけないとしているのです。その理由として、爪白癬のうち半数近くは真菌が存在していないというデータを学会は発表しており、爪の傷が爪白癬のように見えているだけ、というケースが多いことを示しています。治療するターゲットを誤った治療が無意味なのは当然です。ですから、飲み薬を始める前に真菌がいるかどうかを、顕微鏡で確認するのが重要になります。
 しかも爪水虫の飲み薬には肝臓の障害など、重い副作用が起こることも知られています。それだけに無用な治療を避けることはなおさら大切です。飲み薬は半年程度続ける必要がある場合もあり、薬剤費用がジェネリックを使っても全体で2万円近くになります。