室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(70回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)不眠症治療の最初の薬剤として抗精神病薬は使うべからず 米国精神医学会、米国老年医学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第70回】

受けたくない医療67【精神科】
不眠症治療の最初の薬剤として抗精神病薬は使うべからず
米国精神医学会、米国老年医学会

 不眠症に抗精神病薬と言うと筋違いな印象もあるが、実際に使われる場面はしばしばある。ただ、最初に投与する薬剤には注意が必要だ。
 米国精神医学会は、「成人の不眠症の治療として、最初の薬剤に抗精神病薬を使ってはならない」と「Choosing Wisely」に書いている。不眠症に抗精神病薬を処方した際の有効性に関して明確な根拠がないというのが理由だ。ほかに原因のない不眠症でも、ほかの原因に伴う不眠症でも同様だ。効果の有無については臨床検査によって見解が分かれている。
 不眠症のほか、攻撃性が高まったり、うわ言を言うような異常行動、すなわち「せん妄」の症状があったりする場合にも最初の薬剤には注意が必要だ。
 米国老年医学会は、「高齢者の不眠症、攻撃性、せん妄の治療では、最初の薬剤としてベンゾジアゼピンや催眠薬、鎮静薬を使ってはならない」と注意を喚起する。ベンゾジアゼピンとは一般的な睡眠導入薬の一つだが、大規模な臨床研究によると、高齢者でベンゾジアゼピンや催眠薬、鎮静薬を服用していると、交通事故や転倒、 大腿骨頸部骨折のリスクが2倍に上昇し、入院や死亡にもつながると分かっている。高齢者、介助者、サービス提供者は有害性を認識して、不眠症、攻撃性、せん妄の治療戦略を考える必要がある。
 「ベンゾジアゼピンの使用は、アルコール離脱症状あるいは振戦せん妄、重度の全般性不安障害のために取っておくべきだ」と学会は説明する。

(第70回おわり、第71回へつづく)