第4章 こんな【薬】は飲むだけムダ!
風邪の薬──抗生物質は不要です
風邪とひとくくりにされるさまざまな病気
風邪をひくといやなものです。日常がさまたげられて、仕事や勉強、家事などができなくなるのですから。風邪を治すための薬は、市販薬から処方薬までたくさん出回っています。
ちなみに風邪というのは、病名ではなく、症状の名前です。だから、風邪の裏にはいろいろな病気が隠れていることになります。多くの場合は、急性鼻咽頭炎、急性上気道感染症、急性副鼻腔炎、急性咽頭炎、急性扁桃炎、急性喉頭炎、そしてインフル
エンザなどがあります。
厚生労働省の患者調査では、急性鼻咽頭炎が「かぜ(感冒)」として扱われており、調査した日の総患者数は12万4000人となっています。患者調査は3年に一度大がかりな調査をするのですが、調査する月はなぜか10月と決まっています。秋と言えば気候もおだやかで風邪も冬ほど目立ちませんし、インフルエンザなどの流行ももう少し後から始まりますので、実際の年間を通じたかぜの患者数はこれよりはるかに多いと推定されます。
とかく風邪というのは身近なものですが、とはいえかかってしまったら早いところ治したいというのは誰しも思うところでしょう。
そういうわけで、風邪になったときには早めに医療機関へ、というお考えの方が多いのも不思議ではありません。最近では、インフルエンザなど風邪の原因を特定できる検査があるので、そこでたとえばインフルエンザと分かったときには、その治療に適した薬が処方されます。ですが、多くの場合、風邪の原因ははっきりしません。原則として、何らかのウイルスによって起こっていると考えられています。ウイルスにはライノウイルスやコロナウイルス、アデノウイルスなどが関係している場合がありますが、そうしたときに抗菌薬、いわゆる「抗生物質」をお医者さんに出してもらう、ということもあるようです。「菌」に対「抗」するのだから抗菌薬、ということでこれを飲めば安心、という風にお考えの方もおられるかもしれませんが、そこには落とし穴があります。
ウイルスに抗菌薬を使っても仕方ない
チュージング・ワイズリーでは、いわゆる風邪に対して、抗菌薬は使わないように、としています。
そもそも急性鼻咽頭炎、副鼻腔炎、喉頭炎、気管支炎など風邪としてひとくくりに見られる場合が多いケースのほとんどは、ウイルスが原因なのです。米国小児科学会は、明らかにウイルスが原因と考えられる呼吸器疾患に対して抗菌薬を使わないように、と説明しているのです。
一般に抗生物質と呼ばれている抗菌薬は、細菌には効くものの、ウイルスには効きません。細菌とウイルスは作りがまったくちがうので、薬で攻撃するポイントが別だからです。
抗菌薬がムダだ、というのは日本でもようやく広まってきたところです。2017年には厚生労働省から「抗微生物薬適正使用の手引き」として、風邪には抗菌薬は不要であると強調した文書が出されたところです。よほど症状が重かったり、息苦しさが強いといった肺炎が考えられるようなケースだったり、のどの症状が強かったり、ということでなければ、安易に抗菌薬を使うことを控えるように指示しています。
医療機関で風邪に抗菌薬が処方されるのは、細菌の感染も起こると容体がさらに悪化しかねない、という理由からです。加えて、風邪になった本人や家族が求めるので、というのが大きいようです。しかし、それには意味がないということが、研究でもはっきりしています。
薬が効かないばかりか、抗菌薬が効かない細菌を生み出す原因にもなると考えられています。米国などでは「スーパーバグ」という名前がつけられ、その有害性が恐れられるようになっています。日本でも薬剤耐性菌として問題視されてきました。さらに、薬そのものも下痢を起こすなどの副作用を伴う可能性があります。
日本では子供の医療が無料であるケースも多く、薬をいろいろと出されることに経済的な負担が生じにくい状況があります。だからといって、メリットよりもデメリットが上回る状態を放っておくことはできません。