室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

卵巣がんの検査──検査の意味がないことも(22回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術
卵巣がんの検査──検査の意味がないことも
見つかりにくく、見つかったときには進行しているケースも多い

 卵巣は、女性が卵子を作る臓器です。卵巣がんは、この卵巣や卵巣の周囲にがんができる病気です。卵巣がんは、女性で最も多いがんである乳がんほどかかる人が多くはありません。国立がん研究センターのデータによると、生涯で乳がんにかかる女性は11人に1人であるのに対して、卵巣がんは84人に1人。それぞれの原因で死亡する女性は、乳がんが67人に1人、卵巣がんは195人に1人。このように、卵巣がんは発生の度合いを示す罹患率で見ると低いのですが、がんと診断された5年間の命が保たれる割合である「5年生存率」は、乳がんの91・1%に対して、卵巣がんは58・0%と、発病してしまうと命を救うのが難しいがんと言えるのです。
 そうなると、卵巣がんを早期に見つけるのが理想的ですが、話はそう簡単ではありません。卵巣がんは初期にはほとんど症状がないためです。下腹部の痛みを感じる場合があるものの、ほとんどのケースでは見逃されてしまっています。自覚症状が出る場合は、がんが発生してから早期のうちにおなかの中にがん細胞が広がり、この広がったがんのおかげで胃腸の調子が悪くなるような症状が起こることで気がつく、ということが多いとされています。見つかったときには転移が広がった状態になり、いわゆる末期の状態であることも珍しくないのです。