室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(28回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)受けたくない医療23【ガン検診】 PETやCT検査などガン検診は控えよ 米国核医学・分子イメージング学会、米国臨床腫瘍学会、米国婦人科癌学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療


【第28回】

受けたくない医療23【ガン検診】
PETやCT検査などガン検診は控えよ
米国核医学・分子イメージング学会、米国臨床腫瘍学会、米国婦人科癌学会

 健康であってもガン検診は積極的に受けるべきだと思う人は多いかもしれない。だが、ガン検診で日本でも人気の高い「PET検査」は旗色が悪い。PET検査とは、放射性を持った糖を注射して、ガンの存在を検出する方法だ。ガンでは糖の活用が高まるため、放射性の集中する部分があるかどうかでガンの存在を検出できると考えられている。
 画像検査の専門的な学会である米国核医学・分子イメージング学会は、「PET検査は健康な人のガン検診に使ってはならない」と「Choosing Wisely」で断言している。
 学会によると、その理由は健康な人でガンが見つかる可能性が極端に低いからだ。PET検査に関する臨床研究のデータによると、その発見率は1%前後にとどまる。明確にPET検査を必要とするような症状がある場合の診断やガンが確認された後の重症度の判定、治療中の効果判定といった時は効果的だが、そうでなければ有害性ばかりが伴う。無用な追加的な検査を強いたり、組織を切除する「生検」を実施したりするだけでなく、不要な手術につながることすらあり問題が大きい。ちなみに、学会はCT検査も同様な理由で健康な人には不要だと説明している。
 米国臨床腫瘍学会も、一度ガン治療を受けた人で無症状の場合、PET検査と「PET.CT検査」はガン検診として行うべきではないとChoosing Wiselyのリストに掲げた。PET.CT検査とは、PET検査と体の断面画像を撮影できるCT検査を組み合わせた検査で、より立体的にガンの存在を見つけられると考えられている。ただ、画像検査によって治療成績が向上するという臨床研究による根拠はない。
 さらに、米国婦人科癌学会も、婦人科系のガンの画像検査には慎重な立場を取っている。「画像検査によるガンの検診を安易に実施すべきではない。特に卵巣、子宮内膜、子宮頸、外陰部、膣のガンについては避けたい」と説明する。理由としては、症状や腫瘍マーカーが上がっていないのに画像検査を実施しても、再発の検出や生存率の向上にはつながらないと臨床研究から分かっているからだ。
 これまでの臨床研究によれば、一度ガン治療を受けた人の再発を判断する目的で画像検査を実施しても、その後の治療でいい結果につながらない。ガンがないにもかかわらずガンがあると判定されて、無用に検査されたり、過剰な治療を受けることになったりするからだ。PET.CT検査になれば、無用な放射線被曝も起こる。米国臨床腫瘍学会は臨床研究に基づく根拠が足りないと指摘する。日本でも1回の検査に10万円ほど支払って検査を受ける人はいるが、その「実力」については前もって知っておいた方がよいだろう。

受けたくない医療24【ガン検診】
余命10年未満の人へのガン検診は控えよ
米国 一 般内科学会、米国腎臓学会

 PET検査やCT検査に限らず、より一般的にガン検診を控えるよう訴えるのは米国一般内科学会である。「ガン検診は平均余命が10年未満の人には推奨できない」と勧告する。
 ガン検診はガンを見つける面でメリットがある一方で、ガンが見つかっても見つからなくても受診者には負担となる。「明らかに生存を延ばすと分かっている時だけに限るべきだ」と学会は説明する。
 その目安として、受診者の年齢から判断した平均的な余命(平均余命)が10年未満の場合には、「生存へのメリットよりも検査の誤りや検査後の治療から受ける負担によるデメリットの方が大きい」と言う。有害性の方が前面に出てくるわけだ。潜在的な利益と有害性を比べれば、平均余命が10年を切るような高齢者ではガン検診は勧められない。
 米国腎臓学会も透析患者について同様に勧めている。「平均余命の限られた、特別な兆候や症状のない透析患者に対して、安易にガン検診を行うべきではない」というものだ。
 腎臓の機能が著しく低下した末期腎不全(ESRD)の患者は死亡率が高い。余命の限られた透析患者にとって、乳ガンを検出するための「マンモグラフィー」、大腸ガンを検出するための大腸内視鏡、前立腺ガンを検出するためのPSAによる検診、子宮頸ガンを検出するための細胞診といったガン検診をしても無駄に終わる。患者の出費を強いるうえに、生存率も改善しない。透析と同様に、腎移植の対象となる人でも問題になる。
 ガンでないにもかかわらずガンかもしれないという結果が出れば、やはり過剰治療や精神的な負担など有害な面が出てくる。ガン検診を考える時には、受診者のその後の人生を考えることが必須だというのは、米国の学会に共通するところだ。

(第28回おわり、第29回へつづく)