室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(97回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)超高齢者にLDLコレステロールを下げる薬は無用 米国医療ディレクターズ協会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第97回】

受けたくない医療94【循環器】
超高齢者にLDLコレステロールを下げる薬は無用
米国医療ディレクターズ協会

 米国医療ディレクターズ協会は、「余命が限られた人に、安易にLDLコレステロールを下げる薬を処方してはならない」と注意を喚起する。
 協会は、高LDLコレステロール血症あるいは低HDLコレステロール血症が全死亡リスクを高めると示した臨床試験はないと指摘する。さらに、冠動脈性の心臓疾患による死亡や心筋梗塞による入院を増やす根拠はなく、70歳以上の人で不安定狭心症を増やすとの根拠もない。ちなみに、LDLコレステロールはいわゆる「悪玉」で、HDLコレステロールは「善玉」である。
 実際、高齢者では低いLDLコレステロール値こそが高い死亡率とつながっていると臨床研究では示されているうえに、85歳以上ではメリットよりもリスクが高まることも判明している。LDLコレステロールを下げるための薬剤スタチン(※37)を服用すると、認知機能障害、転倒、神経疾患、筋肉障害といったリスクが増える。結局、少なくとも超高齢者では高LDLコレステロールを是正する必要性は低いと協会は見る。
 薬剤費は大きな検査や手術と比べれば1回当たりの費用は安いが、スタチンは一生服用するタイプの薬。年間3万円ほどで、10年となれば30万円にもなる。ちりも積もればバカにならない。

※37 「HMG‐Co還元酵素」と呼ばれる酵素を阻害して、コレステロールの合成を抑える。日本の製薬大手、三共(現・第一三共)の研究グループが最初のアイデアを出した。複数の種類があり、このうちアトルバスタチンは2000年代後半に世界で最も売り上げを上げた。

(第97回おわり、第98回へつづく)