室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(55回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)胃ろうは認知症では意味なし 米国医療ディレクターズ協会、米国ホスピス緩和医療学会、米国老年医学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第55回】

受けたくない医療52【消化器科】
胃ろうは認知症では意味なし
米国医療ディレクターズ協会、米国ホスピス緩和医療学会、米国老年医学会

 第一部で紹介した通り、高齢者の胃ろうは大きな問題になっている。特に、認知症の場合は認知能力がないままに、胃に栄養液を注入されて延命している状態になる。こうした現状に対して、米国医療ディレクターズ協会は、「認知症では胃ろうを作るべきではない。栄養は口から取るようにすべきだ」と強調している。
 認知症が進んだ患者に対して胃ろうを作っても延命効果がないばかりか、生活の質を高めないからだ。臨床研究でこうした事実は明確になっている。
 身体機能が大幅に低下し、病勢も進行していて食べられない状態が続いている中で、人工的な栄養でごまかしたところで回復するわけでもない。胃ろうを作るのは、誤って食べ物が気道に入る「誤嚥」の懸念があるからという面があるが、胃ろうを作ったからといって誤嚥の被害が減るわけでもない。液状の栄養液が胃から口の方に逆流して、誤嚥を起こすこともある。
 さらに、下痢や腹痛を起こす場合があるほか、チューブの挿入部位が不快感をもたらしたりもする。動きが抑制されるので人との交流も妨げられる。「やはり介助しながら、口から食事をするのが、認知症の進んだ人にとっても望ましい」と学会は語る。
 米国ホスピス緩和医療学会も同じ結論だ。臨床研究によると、生存率、誤嚥性肺炎の予防効果、褥じょく瘡そう(床ずれ)の改善のいずれも胃ろうによって改善しないと結論づけている。むしろ褥瘡を進行させるほか、身体面で制限を強いることになり、薬剤の利用も難しくする。進んだ認知症においては、確実な栄養補給よりも、快適性や人的な交流を実現する方が大切である場合が多いという。
 米国老年医学会も同じだ。注意深く手で食事をさせても、胃ろうでも延命効果に差はない。人間らしく食事をするのが基本ということだろう。

(第55回おわり、第56回へつづく)