室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(36回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)受けたくない医療33 【糖尿病】 高齢者の場合、ヘモグロビンA1cは7・5%程度でよい 米国老年医学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療


【第36回】

受けたくない医療33 【糖尿病】
高齢者の場合、ヘモグロビンA1cは7・5%程度でよい
米国老年医学会

 糖尿病の治療をする時に、血糖値をどこまで下げるかは議論になるポイントだ。一般的に糖尿病は、血糖値の指標であるヘモグロビンA1c(HbA1c)が6・5%以上の場合となる。この水準をどれくらい下げるとよいのか、高齢者でも同じように下げるのかなど論点は多い。

 米国老年医学会は、「65歳を超えた人のほとんどは、血糖値でHbA1c7・5%未満を達成できていれば投薬を避けた方がよい。穏やかな管理が一般的には望ましい」と考えている。高齢の2型糖尿病(※22)で、薬剤を使って厳しく血糖値を低下させることがメリットにつながるという臨床研究の根拠はないからだ。

 非高齢者の場合、メトホルミンという薬剤を使った時に心筋梗塞と死亡のリスクを長期間にわたって抑制できる根拠はある。一方で、薬剤でHbA1cを7%未満に維持する治療は、死亡率の上昇を含めて有害性にむしろ関連していることが分かっている。

 高齢者においては、厳しい血糖値の低下は低血糖症のリスク上昇につながると一貫して示されてきた。血糖値を激しく低下させると、微小な血管にとってよいという理論もあるが、長期的には血糖値の目標設定は患者の望み、健康状態、平均寿命を反映させて決めるべきというのが最近の考え方だ。

 合理的な血糖値の目標について、学会は次のように示している。「まだ平均余命の長い高齢者においてはHbA1cを7・0.7・5%の範囲に、合併症が少なく平均余命が10年未満の高齢者ならば、7・5~8・0%の範囲に収めるとよい。複数の合併症があって、平均余命がより短い高齢者であれば8・0~9・0%の範囲に収めればよいだろう」。

 高齢になると、無理に血糖値を下げない方が治療の負担は少ない。結果として、生活の質を高めることになる。

 ※22 糖尿病には1型と2型がある。1型は遺伝的な原因で血糖値の調整ができなくなるタイプの糖尿病で、子供の段階で発症することが多い。一方の2型は、暴飲暴食のような生活習慣の問題から血糖値の調整能力が疲弊して起こるタイプ。中高年以上で発症する場合が多い。

(第36回おわり、第37回へつづく)