室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(96回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)無駄な心臓の検査に要注意 米国胸部外科学会、米国心血管CT学会、米国核医学・分子イメージング学会、米国核心臓病学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第96回】

受けたくない医療93【循環器】
無駄な心臓の検査に要注意
米国胸部外科学会、米国心血管CT学会、米国核医学・分子イメージング学会、米国核心臓病学会

 心臓の検査は大切だが、無駄な検査も隠れている。
 運動をしたうえで検査をする方法に運動負荷検査というものがある。心臓の検査では意味を持つのだが、身体能力が正常な人には必要ないようだ。
 米国胸部外科学会は、「心臓以外の胸部手術では、心臓の病歴がなく、身体能力が正常である患者には術前の運動負荷の検査は必要ない」と指摘する。
 臨床研究によると、身体能力がよい場合は、手術前後、長期にわたる心臓疾患の発症リスクは判断できる。身体機能が高い無症状の患者では、術前に運動負荷検査をしたからといって治療方針が変わることはない。従って、運動負荷検査をせずに手術計画を立てるのが適切となる。
 不要な運動負荷検査はむしろ有害にもなる。検査のための出費を増やし、治療を遅らせる。術前の運動負荷検査をして、かえって合併症を増やす恐れもある。心臓の合併症が生じれば、手術後に病気の感染リスクを増やしたり、死亡率を高めたりする可能性もある。「心臓の合併症リスクのある患者を特定するのは大切だが、病歴、身体検査、安静時の心電図で検出することは十分できる」と学会は説明する。
 日本で運動負荷検査を受けると、1万円程度の費用がかかる。意味なく身体的、経済的に負担のかかる検査はしたくないものだ。
 無症状の患者に対する心臓検査では、ほかにも注意する点はある。
 米国心血管CT学会は、無症状の患者の検査では、冠動脈CT血管造影の検査を安易に実施しないよう求める。心臓を覆うように取り巻いて、心臓に血液を送るのが冠動脈。この冠動脈が詰まっているかどうか、放射線を通さない性質を持つ造影液を使ってCT検査で確認することができる。
 学会によると、この冠動脈CT血管造影は無症状の患者の場合、冠動脈の内部に石灰が沈着している程度を見る「カルシウムスコアリング」以上の意味を持たないという。とはいえ、カルシウムスコアリングは造影液を使わずにCT検査を行えば判定できる。造影液は副作用もあり心臓に無用に負担をかけるだけなので、避けるのが賢明というわけだ。ちなみに、日本で受けると、3万円ほどの費用がかかる。
 専門性が高いところだが、学会は冠動脈CT血管造影について、救急に搬送された急性の胸痛のある患者で高リスクの場合には実施してはならないと言う。低リスクから中等度リスクの患者では効果があると分かっているが、高リスクの患者で意義があるかは不明だからだ。「高リスクの時こそ実施すべきでは?」と思われそうだが、高リスクの時はCT検査などせず、すぐにカテーテルを使った直接的な検査をしなければならない。
 さらに、米国核医学・分子イメージング学会は、冠動脈が狭くなった時に血管を開く「再灌流療法」の後に、毎年の運動負荷検査を安易に実施してはならないと指摘。米国核心臓病学会も、症状のない患者に対する運動負荷の心臓画像診断、冠動脈造影検査を実施すべきではないとしている。不適切な運動負荷検査を受ける患者のうち、ほぼ半数は無症状で低リスクの患者。検査すべきなのは、40歳以上の糖尿病患者、 末梢動脈疾患の患者、2%を超える年間の冠動脈心疾患の発作率があると判断できる患者だという。
 なお、心臓疾患のリスクは病歴、身体検査、心電図、血液検査で分かるような心臓の生物学的な指標から判定する。

(第96回おわり、第97回へつづく)