室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

余命の状況次第ではそもそも受けなくてよい(19回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術
余命の状況次第ではそもそも受けなくてよい

 日本ではだれもが一部負担で医療を受けられる環境が整っており、医療との接点が途切れません。高齢になっても大腸カメラを受けるケースはあるでしょう。そこもやはり医師と相談するとよいと思います。
 米国では、年を重ねてからの大腸カメラを含めた大腸がん検診の受け方について、平均余命と自分の年齢を比べて、あと10 年を切っていて、しかも家族が大腸がんになったり、自分自身が大腸がんになったりしたことがないのであれば、大腸がんの検診そのものをもう受ける必要がないという考え方が増えてきています。
 誤解のないように言っておくと、まず、米国外科学会は大腸がん検診の意義はあると強調しており、大腸がん検診を行うと人々の死亡率を下げることができると説明をしています。ポリープや大腸がんを見つけて、手術によって切除するきっかけになるからです。ですが、平均余命から見て、10年を切った段階では、利益よりもリスクの方が上回る、と見ているのです。
 大腸検診では、精密検査になると、先に見たように、麻酔を使ったり、管を大腸に入れたりします。薬の副作用が起こりえますし、大腸カメラによって腸が傷つけられたりするリスクがあるとの指摘が学会ではなされています。検査で死亡率が下がるのは重要ではありますが、それよりも検査そのものの事故のリスクがメリットを上回りかねないことに懸念を表明しているのです。また年を重ねてくるとそのリスクが高まることも重要視しています。ここでもそうした利益とリスクを踏まえて、医師と相談をすることで、納得のいく検査にしていくことが欠かせません。