室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(66回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)抗精神病薬は安易に処方しない 米国精神医学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第66回】

受けたくない医療63【精神科】
抗精神病薬は安易に処方しない
米国精神医学会

 精神に関わる疾患で薬を使う際、精神疾患だけ見ていてもうまく治療できない。これは、意外と知られていない点かもしれない。
 米国精神医学会は、「抗精神病薬は、初期の適切な適応症を検証し、しかも継続的に副作用をモニタリングしない限りは、処方してはならない」と厳しく制限を設ける。
 学会によれば、抗精神病薬の処方では副作用の問題が重要になる。メタボリック症候群が出やすくなったり、神経や筋肉の問題が起こりやすくなったり、心血管系の副作用が出やすくなったりする。だからこそ、医師ら医療従事者は初期の段階で患者を正しく診断し、薬剤の適応が確実にあるかどうか根拠を明確にする必要がある。副作用が出ないか否かを継続的にモニタリングすることも必須だ。
 「適切な初期の評価」とは次の要素を含む。まず、薬の標的とする症状について、原因を正しく想定することだ。確認しなければならないのは、体温や脈拍のような一般的な問題のほか、行動や言動のような精神医学的な問題、環境や心理社会的な問題の有無だ。次に一般的な疾患の考察で、精神的な疾患と診断可能かどうかを注意深く判断する必要がある。メタボリック症候群や心血管系の疾患をはじめとした一般的な疾患の家族歴があるかどうかも調べなければならない。
 さらに、「適切なモニタリング」としては、疾患の状態をあらためて調べることに加えて、薬の用量を記録すること、効果や有害作用を調べること、運動障害や神経学的な障害といった症状の変化を見ること、体重、腹囲、BMIの変化を見ること、血圧や脈拍、血糖値や脂質の状態を見ることだ。精神に関わる疾患とはいえ、調べる範囲は精神にとどまらない。

(第66回おわり、第67回へつづく)