室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(58回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)ストレス性胃潰瘍に投薬しない 米国病院医学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第58回】

受けたくない医療55【消化器科】

ストレス性胃潰瘍に投薬しない
米国病院医学会

 米国病院医学会は、「消化器合併症のリスクがないならば、ストレス性胃潰瘍の予防のための投薬は行うべきではない」と述べている。
 米国のガイドラインによると、ストレス性胃潰瘍に対する予防投薬は、集中治療室でなければ推奨されていない。集中治療室で体調が悪化している人を例外として、胃潰瘍がないにもかかわらず、胃酸を抑える薬を予防的に使うなというわけだ。
 ヒスタミン2(H2)阻害薬、プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、ストレス性胃潰瘍の治療に使われている一方で、副作用を伴い、患者の出費のもとにもなる。日本で投薬を受けると5000円ほどかかるだろう。結果として、医療が原因の肺炎やクロストリジウム・ディフィシル感染症(※31)にかかりやすくなる。ガイドラインを守れば、胃潰瘍による出血の恐れが少ない人に対する無駄な投薬は確実に減るうえに、副作用の問題もなくなる。これは、医療従事者にとってもメリットではないだろうか。

※31 土壌や腸内などの酸素の少ない場所に存在する細菌で、高齢者の病院内での集団感染が問題になっている。抗菌薬が効きにくいために、抗菌薬を飲んだ後にこの細菌だけが生き残って下痢が発生する場合がある。結果として、周囲に広がってしまう。

(第58回おわり、第59回へつづく)