室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(54回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)テストステロン正常のEDにテストステロン補充は無意味 米国泌尿器科学会、米国内分泌学会、米国臨床内分泌医学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第54回】

受けたくない医療51【腎泌尿器】
テストステロン正常のEDにテストステロン補充は無意味
米国泌尿器科学会、米国内分泌学会、米国臨床内分泌医学会

勃起障害、いわゆるEDは大きな問題だ。その治療として、テストステロン(※30)の補充は治療の選択肢となるが、効果については不明なところもある。米国泌尿器科学会は、「テストステロン値が正常な勃起不全の男性に対して、テストステロンを補充してはならない」と指摘する。
 テストステロンの補充治療は、性的な関心を高めると臨床研究から分かっている。一方で、勃起不全に効果があるかと言えば、少なくともテストステロン値が正常な男性に対しては、臨床研究では否定されている。性欲を高めても、勃起には効かないわけだ。
 米国内分泌学会、米国臨床内分泌医学会も、「テストステロン値の不足が勃起不全の原因と生化学的に証明できない限りは、テストステロンを補充してはならない」と指摘する。男性のテストステロンの低値に関係する多くの症状は、病気にかかわらず加齢によって起きる。何らかの疾患によって見られることも少なくない。
 テストステロン補充療法は、むしろ重大な副作用が問題になるうえに、多額の出費も伴う。生化学の検査をして、性ホルモンが低下していることを確認すべきだと強調する。米国のガイドラインによると、検査によって早朝の総テストステロン値の水準を調べるよう求めている。低水準の状態が異なる日でいずれも検出されれば、総テストステロンの低値と判断する。遊離型および生物活性型のテストステロンの値も参考となる。
 テストステロンが正常な男性に対して、テストステロン補充が効果を持つこと示すような臨床研究は最近に至ってもほとんどない。日本の場合、テストロン補充にかかるコストは月2万円ほど。無意味だとすれば、テストステロンの補充を控えることも考えるべきだ。

※ 30 テストステロンは、いわゆる男性ホルモンのこと。男性らしさを生み出すホルモンで、英語ではアンドロゲンと言う。

(第54回おわり、第55回へつづく)