室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(14回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)第ニ部「受けたくない医療100」を一挙公開

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第14回】

第ニ部「受けたくない医療100」を一挙公開

「効果がある」と医師や患者が信じていても、
有効性が科学的に疑問視されている医療は少なからず存在している。
第二部では、米国の専門学会が指摘した、
100件の「受けたくない医療」を紹介していく。
目から鱗が落ちること、請け合いだ。

 米国の無駄な追放運動である「Choosing Wisely」──。第二部では、そこで取り上げられた医療の内容と根拠を見ていく。本家は約250の医療が学会ごとに分かれる形で列挙されているが、ここでは人口に膾炙している医療に限って100の項目に整理した。いくつかの学会で重複している内容は一本化している。詳しくは後述するとして、一部抜き出してみる。日本の医療にも生かせるはずだ。

 「肺ガンのCT検診は、ほとんど無意味である」(米国胸部医師学会、米国胸部学会)
 →55~74歳のヘビースモーカー以外では効果が低い。

 「精神疾患ではない若年者には、『まず薬』で対処してはいけない」(米国精神医学会)
 →治療効果よりも、脳卒中や死亡、パーキンソン病のリスクが高まるなど不利益が多い。

 「大腸の内視鏡検査は10年に1度で十分である」(米国消化器病学会)
 →特別なリスクを持った人でなければ大腸ガンの危険は少なく、繰り返しても発見しにくい。

 「テストステロン値が正常な男性のED治療に、テストステロンを使用してはいけない」(米国泌尿器科学会)
 →テストステロンは性欲を上げるが、勃起力を上げる効果はない。

 「超高齢者のコレステロールは下げてはいけない」(米国医療ディレクターズ協会)
 →むしろコレステロール値が低い方が、死亡率が高くなる傾向がある。

 「6週間以内の腰痛には画像診断をしても無駄である」(米国家庭医学会)
 →6週間を超えないと検査では原因が特定できず、無駄なコストがかかるだけ。

 「前立腺ガンの陽子線療法は、ほとんど無意味である」(米国放射線腫瘍学会)
 →治療の有効性を示す調査や根拠がない。

「4歳以下の子供の風邪に薬を使ってはいけない」(米国小児科学会)
 →風邪薬の有効性はほとんどなく、逆に副作用が増える。

 「リウマチの関節炎でMRI検査をするのは無駄である」(米国リウマチ学会)
 →診察とX線検査で十分に進行度を診断できる。

 まず、あらゆる疾患の中でも切実なガンの問題を取り上げていく。続いて、ガンとは異なる様々な疾患の分野に潜む問題を見る。さらに、日本の医療の現状も踏まえて、それぞれにかかる医療費についても触れていきたい。日本の医療法では広告の中身を制限していて、かかる費用を掲示してはならない。ホームページはグレーゾーンなので示している場合もあるが、示していないところも多い。ここで示した費用感は参考になると思う。
 なお、金額は基本的には総額の概算値だけを示す。医療機関によって同時に受ける処置や検査が異なること、制度変更によって項目ごとの請求額が変動すること、先端的な医療をはじめ保険適用の対象範囲が次々と変わっていくことなどがその理由だ。あくまでも目安だが、それでも十分、役立つはずだ。
 まずはご自身の関心のある項目を読み込んでいただければと思う。また、時間をおいて本書を開けば別の発見があるだろうと想像する。医療の世界は広く、深い。時間が経って問題意識が変われば、きっと興味の対象は変わるはずだ。
 それでは本当に必要な診断や治療、予防を考えていこう。

ガン

ガンと一口に言っても、腹部のガン、生殖器のガン、皮膚のガンなど様々な種類がある。ここでは日本での関心の高さや患者の多さなどを踏まえながら、ガンの治療を考えるうえで参考になる部分を見ていく。まず、日本でも増える前立腺ガンの問題から始めよう。

(第14回おわり、第15回へつづく)