中絶の判断──出生前検査で決めるべきではない
検査は信じられるか
厚生労働省の2016年度のデータによると、日本の年間の人工妊娠中絶件数は16万8015件。前年比で4・7%減なので、減少傾向にはありますが、少なくはありません。
女性の人口でみると、1000人に6・5人が1年間で中絶を経験している計算になります。背景はさまざまですが、中には胎児の染色体異常の疑いを理由とする場合も存在しています。
よく知られているのは、染色体の21番目が通常の2本よりも1本多い3本となるダウン症です。最近では、血液検査によってかなり早い段階から分かるようになっています。
この、ダウン症などの染色体異常が胎児に発生していないかどうかを調べるため、2013年に日本でも利用できるようになった検査が、「非侵襲出生前検査(NIPT)」です。胎児の染色体が母親の血液に流れていることに着目して、問題となる染色体の異常を調べる方法です。
染色体異常が疑われた場合には、母体の状態なども加味して検討しながら、中絶の選択をとることもあるわけです。
正常と出たのに、染色体異常があるケースも
チュージング・ワイズリーでは、NIPTを中絶の判断に乱用すべきではない、としており、米国母子学会がこの検査だけで中絶を決めないように、というコメントを出しています。NIPTの精度が十分ではないからです。
中絶の判断をするのは、ほかの点からのリスクが明確であるときに限るべきで、そのリスクというのは、妊婦の年齢が35歳を超えている場合のほか、類似の血液検査によって胎児の染色体異常が疑われる場合です。こうした条件に当てはまらないときにやみくもにNIPTで異常の疑いが出たからと中絶に踏み切った場合、全く正常な胎児の命を絶ってしまうことになりかねません。
逆に、染色体異常があるのに、検査では正常だと判断されるケースもあり得ます。染色体異常には、21番目の染色体が3本になるダウン症のほかにも、13番、18番の染色体が3本になるケースもあります。こうしたケースではNIPTの検査で異常をみつけられない可能性は捨て切れません。
中絶に踏み切るには、慎重になるべきだと学会は強調しています。そもそも検査を受ける前に、この検査のメリットだけではなく、デメリットについても十分な説明を受けておく必要があるのです。
日本でも出生前検査は広がりを見せており、参考にしたい情報です。