室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

前立腺がんの検査――検査には賛否両論あり! 余命の状況次第ではそもそも受けなくてよい(20回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術
前立腺がんの検査――検査には賛否両論あり!
最も多い男性のがんだが……

 男性であれば、「前立腺」についてどこかで聞いたこともあるかもしれません。男性の生殖器はいろいろな部分から成り立っていますが、その一部である前立腺は、ムダな医療行為が疑われているという意味では注目されている体の部位でもあるのです。
 そもそも前立腺とは何でしょうか? 前立腺は股の間にあって、精子を泳がせる「プール」になる場所です。
 この前立腺は、男性の病気になる場所としてはポピュラーで、前立腺肥大で尿が出づらいといった症状が男性から聞かれることがありますが、同様に前立腺の病気として見逃せないのが前立腺のがんです。前立腺の精液を作る細胞に異常が起きて、がんになることがあるのです。どのような人がなるかというと、中高年の男性に多いことが分かっています。前立腺がんの死亡率は2016年に10万人当たり20人。男性のがんとしては、2015年の罹患者数が9万8400人。男性のがんでは一番多いものになっています。2016年の国立がん研究センターのデータによると年間の死亡者数は1万1803人。なかなか難しいのは症状がほとんどないこと。自分で痛みを感じたり、違和感があったりすれば見つけやすいものの、それがないのです。
 がんができると前立腺の内部から広がって、徐々に卵の殻を破るように外に出て、最終的に前立腺以外の場所に広がっていくことになります。がん細胞にもいろいろな特徴があり、進行が早いものもあればゆっくりなものもありますが、前立腺がんはどちらかといえばゆっくりと進むものが多く、がんが発生してから死亡に至るまでに数十年かかるケースもあるなど、寿命に影響しないものもあります。別の病気で亡くなった人が、実は前立腺がんがあったと発見されることもあるくらいです。症状も尿がでにくいとか、逆に尿がよく出るといった分かりにくいものから現れることもあり、いつの間にかがんだったという状態になることもあるのです。実際、周りに前立腺がんになった人がいる方であれば、すぐに死亡にはつながらないものだと実感している人もいると思います。国立がん研究センターのデータによると、5年生存率(2006年~2008年に診断されたケース)は97・5%で、膵臓がんの7・9%などと比べると桁違いに高いのです。
 では、この前立腺がんをどのように見つけるかというと、やはり検査で見つけることになります。人間ドックなどで、男性であれば、「PSA(前立腺特異物質)」という数字を血液検査で調べることがあります。前立腺にできたがんを見つけ出すための検査です。細胞ががんになると、がん細胞からPSAという物質が作られるようになるので、検査で調べることができます。がんを早くに発見できれば、がん細胞を取り除くこともできます。とはいえ、PSAはがんになったとき以外にも出てくることがあるので、PSAの数値が増えてきたときには、精密検査を受けることになります。精密検査では、注射針で前立腺の中の細胞の状態を調べます。股間に針を刺すことになるので、羞恥心もありますし、身体的な負担も軽くはありません。