室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(76回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)失神したからといって頸動脈の画像検査をしない 米国神経学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第76回】

受けたくない医療73【脳神経】
失神したからといって頸動脈の画像検査をしない
米国神経学会

 失神の原因として、頸動脈が狭くなって脳に血液が回らなくなるという脳の貧血がある。頸動脈の内側にある膜が厚くなって、血液の通り道が狭くなる。これは世界的に脳梗塞の一因として問題視される傾向がある。この連想から、失神と関係があるのではという話が浮上する。
 頸動脈の血管が狭くなる現象は、継続的にコレステロールが高い人で問題となる。日本でも、頸動脈を開いて内側で増殖した膜をそぎ落とす手術や、頸動脈の内側をステントと呼ばれる管状の網で補強して血流を確保する手術を行うことがある。その前段として行うのが頸動脈の画像検査だ。これによって、どれくらい狭くなっているかを判断できる。
 ただ、米国の学会は失神で画像検査を行ってはならないという。米国神経学会は、「ほかの神経学的な症候を伴わない失神が起こった場合、頸動脈の画像診断をする必要はない」と断言する。ほかの神経学的な症候とは、話し言葉がもつれたり、体の動きが困難になったりする症状を指している。そうした現象をまずは確認せよというわけだ。
 さらに、そもそも「閉塞性の頸動脈の疾患」があったとしても、失神にはつながらないと注意を促す。要するに、頸動脈が完全に詰まったとしても気を失うことはないという。
 閉塞性の頸動脈の疾患では、失神ではなく、むしろ体の片方に感覚や動きに関わる異常が起こる。広い異常ではなく、一部の障害として出てくるのが特徴的だ。要するに、頸動脈の画像診断をしたからといって、失神の原因を特定する効果はない。単に患者の出費を増やすだけということだ。
 なお、学会によると、失神は比較的頻繁に起こる症状で、一般の米国人のうち40%ほどが一生で1回は経験するという。

(第76回おわり、第77回へつづく)