室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

第3章 こんな【検査】には意味がない! がん検診――検診はメリットばかりではない 日本はCT天国だが…… (14回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

第3章 こんな【検査】には意味がない!

がん検診――検診はメリットばかりではない
日本はCT天国だが……

 日本は、CT検査装置の台数が国際的に突出して多い国であることがよく知られています。OECDのデータによると、100万人当たりの台数では、ほとんどの先進国でも日本の5分の1程度しかないのです。人間ドックや検診で念入りに病気を探すのも日本ならではの光景です。
 病気を探すことそのものは必ずしも悪いことではないのですが、世界の医師に参照されている医学の教科書であるハリソン内科学第5版を見ると、がんのスクリーニングという項目が立てられており、そこにはがんを探すことの意義について書いてありますが、同時にがん検診で発生するデメリットについても明確に書かれています。そこでも説明されていることなのですが、検診には誤りも伴うことを忘れてはいけません。例えば、病気ではないのに病気と判断されたり、逆に病気なのに見逃されたりするリスクもあります。検診を受けたばかりに、違和感のある症状が出ているにもかかわらずその後に安心してしまい、医療機関から遠ざかってしまうというケースもないわけではないのです。国際的にも、検診にはメリットだけではなく、デメリットも存在しているのは常識であるとされています。
 チュージング・ワイズリーにおいても、そうした検診のデメリットには厳しい目を注いでいます。がん検診はその象徴的なものといっていいでしょう。特に問題視しているのは、高齢になってからの検診。がんになると、寿命に影響するので看過できないのですが、高齢になってからは、がんによる寿命への影響は若いころほど深刻ではないケースもあります。そうしたところから、平均寿命まで概ね5年から10年くらいの年齢になってからは、検診を積極的に受けなくてもよいのではないか、という推奨がなされています。
 チュージング・ワイズリーでは、こうした意味でのやりすぎ・ムダの疑いがある検査について、さまざまな観点から指摘しています。世界の医療水準から見ても、参考となるものばかりですから、順にご紹介していきます。

(第14回終わり。第15回に続く)