室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(107回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)治療根拠の説明能力が問われる時代に

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第107回】

治療根拠の説明能力が問われる時代に

 大腸ガンの罹患率は一般的に米国よりも日本の方が低い。また、内視鏡メーカーはオリンパス、富士フイルム、ペンタックスなど日本企業が大半で、日本は内視鏡が広く普及しやすい条件が整っている。内視鏡の検査費用も低いため、内視鏡検査を受ける人も多い。結果として、日本の医師は米国の医師よりも内視鏡の取り扱いや内視鏡を使った診断の能力が高い可能性がある。さらに、大腸ガンを100%見つけるのか、95%でやむを得ないと考えるのか、目標設定の考え方も海外とは異なるかもしれない。
 こういった条件下、日本における大腸内視鏡の検査間隔はどう捉えるべきなのだろうか。
 2005年における厚生労働省の研究班のガイドラインでは、大腸内視鏡の検査間隔を5年あるいは10年と記載している。その根拠は海外のデータを使っている。日本人だけを対象として臨床研究を行うのが容易ではないという点を考慮すれば、医師の裁量により検査間隔を5年やそれよりも短くすることは可能だろう。
 日本では検診に対する補助が手厚いという事情もあるので、内視鏡検査が10年に1回という頻度で落ち着くとは考えにくい。ここは、日本の事情に合わせればいいだろう。
 現実的に見れば、「子供に対するCT検査を可能な限り減らすべきだ」という指摘も日本では浸透しづらいと思う。冒頭の北山君の場合は事なきを得たのでよかったが、医師にしてみれば1回でも重症患者を見逃したくない。外傷時の検査は保険診療で実施できるだけに、患者の金銭的な負担、重症症例の見逃し防止、医師の訴訟リスクなどを天秤にかけると、日本では取りあえずCT検査を受けるように勧めることが多いと思う。ここも、日本ならではの考え方を採ればいい。
 一つ言えるのは、どの国の医師であっても、自らの医療方針に対する説明責任がより高まるという現実だ。国ごとの事情は異なれど、米国のChoosing Wiselyのような推奨が世界的に広がるための素地がある。
 説明には手間とコストを伴うので、医師にとっては必ずしも歓迎される動きではないかもしれない。その手間を省くためにも、日本の医学会をはじめとした組織が医療側をバックアップしていくことは不可欠だ。
 既に広がっている診断や治療、予防のガイドライン作りはより強化されたいところだ。理想を言えば、すべての情報を分かりやすくかみ砕き、一般の手に届きやすくしていきたい。患者側にあらかじめ医療側の事情を理解してもらえるようにすることにも意味がある。結果として、医師が患者に説明する際の手間とコストが抑制できるかもしれない。次に、そのあたりを考えていきたい。

(第106回おわり、第107回へつづく)