【第43回】
受けたくない医療40【整形外科】
抗核抗体の詳細検査は安易にしない
米国リウマチ学会
リウマチや乾癬などの自己免疫疾患では、自らの体を攻撃する「抗体」と呼ばれる防御のためのタンパク質が作られることで症状が起きる。
驚くほどいろいろな標的が攻撃されてしまう。細胞の中にある核もその一つだ。遺伝情報を担う重要なものだが、リウマチではこの核を攻撃する抗体が生じてくる。「抗核抗体」と呼ばれている。
この抗核抗体に関係した検査はいろいろあって、必要に応じて実施することになる。しかし、安易に何でもかんでも検査すればいいというものではない。
抗核抗体の検査には、いろいろな種類がある抗核抗体の全体を調べる簡易検査と、より詳細に個別の抗核抗体について調べる詳細検査がある。米国リウマチ学会は、全体を調べる簡易検査を経ずに個別の検査をしてはならないと自制を求めている。「抗核抗体の詳細検査は、抗核抗体そのものが陽性であって、免疫介在性の疾患が疑われる場合以外は実施すべきではない」。早々に詳しく調べたいところだが、意味なく過剰な検査をするのは問題だ。
抗核抗体の簡易検査が「親」の検査だとすると、詳細検査は「子」の検査に当たる。抗核抗体の詳細検査では、二重らせん構造のDNA、RNP、SSA、SSB、Sc1ー70、動原体に対する抗体のほか、抗Sm抗体が対象になる。これらは抗核抗体が陰性の場合は通常陰性となるので、抗核抗体の詳細検査を先にするべきではないというわけだ。
日本の医療機関でも、「自己免疫疾患が心配だから、念のため細かい検査も一気にやってしまいましょう」と、いわば「全部入り検査」をいきなり実施することがある。ただ、全部入りにすると検査費として4000.5000円かかる。まずは1000円程度で済む簡易検査のみを行うべきというわけだ。
学会によれば、ある種の筋炎で簡易検査が陰性なのに、詳細検査で調べる抗Jo.1抗体が陽性となるような例外があるほか、抗SSA抗体は時折、ループス腎炎およびシェーグレン症候群(※26)のような疾患で詳細検査だけが陽性となる場合がある。といっても、むやみに自己抗体を幅広く検査するのは回避されるべきだと学会は説明する。特定の疾患の可能性を想定して初めて、詳細な自己抗体を検査する。
さらに、学会は「子供のリウマチ性疾患で、抗核抗体の簡易検査が陽性でない限り、『自己抗体パネル』の検査を実施してはならない」とも加えている。自己抗体パネルの検査というのは、まさに上述したような詳細な関連抗体の全部入り検査だ。
学会は「50%の子供が筋骨格系の痛みを持っている」と指摘。リウマチ性疾患の病歴や身体検査の証拠もなく、子供に自己抗体パネルの検査を実施しても臨床結果の根拠はないと説く。子供はそもそも筋肉や関節の痛みを訴える傾向がある。元気に動き回っているがゆえの痛みで、まさに「わんぱく盛り」ならではの特徴だろう。そんな子供に詳細検査をしても意味はないということだ。
自己抗体パネルの検査は高価である。学会によれば臨床研究による検証結果もあり、自己抗体パネルの検査を制限したところ、診断効果を維持しつつ患者の出費を削減できることが示された。自己抗体パネルの検査は抗核抗体検査の陽性を確認したうえで実施すべきだという。
学会は検査の繰り返しについても注意を促している。「子供において、炎症性関節炎や全身性エリテマトーデス(※27)のある患者に対して、抗核抗体検査を繰り返し実施してはならない」。
子供において抗核抗体が存在する事実は、リウマチ性疾患である全身性エリテマトーデスの診断に重要な意味を持つ。検査で陽性と分かれば、炎症性関節炎のある子供でさらに精密検査をする判断のきっかけとなる。だからといって、検査を繰り返してはならないと、臨床研究の結果に基づいて指摘している。
※26 自己免疫疾患では、本文にあるように自分自身を攻撃する抗体が多様な問題を起こす。ループス腎炎はその一つで、自己を攻撃する抗体と標的が結びついてできた固まりが腎臓で詰まってしまう障害だ。一方のシェーグレン症候群は、涙や唾液を作り出す腺組織が自分自身を攻撃する抗体によって破壊される障害である。
※27 狼にかまれたような赤みがかった病変を皮膚に作るため、「狼瘡」という名前がある。
(第43回おわり、第44回へつづく)