室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(42回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)【第42回】 受けたくない医療39【整形外科】 リウマチに、バイオ医薬品を真っ先に使わない 米国リウマチ学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第42回】

受けたくない医療39【整形外科】
リウマチに、バイオ医薬品を真っ先に使わない
米国リウマチ学会
 
 リウマチに対して生物学的製剤、いわゆるバイオ医薬品の投与が一般化している。リウマチは、自分の組織を攻撃する抗体と呼ばれるタンパク質が体内で生じて起こる自己免疫疾患。バイオ医薬品とは人がもともと持つ機能を応用して、この自分自身を攻撃する要因を抑制する薬のことだ。抗体医薬をはじめとして、日本でもリウマチの治療でバイオ医薬品の活用が広がっている。
 バイオ医薬品は効果が高いと評価される一方で、年間の薬剤費が100万円以上に膨らむため、日本でも問題として語られることがある。それは、海外でも同じようだ。より安価なメトトレキサートなどの薬剤を使った治療をまずは試みよという「お達し」である。メトトレキサートを使えば、年間の薬剤費は3万~8万円程度に抑えられる。
 米国リウマチ学会は、「メトトレキサートおよび他の非生物学的なリウマチ薬(DMARDs)を関節リウマチの患者に使う前段階で、バイオ医薬品を処方してはならない」と慎重だ。
 メトトレキサートおよび他の非バイオ医薬品であるDMARDsは関節リウマチの患者の多くに有効性を示す薬で、バイオ医薬品よりも以前から使われていた。関節リウマチの最初の治療は一般的な非生物学的製剤であるDMARDsであるべきだと学会は考えている。禁忌となっていない限りは優先するよう求める。
 「患者を当初3カ月は、非バイオ医薬品のDMARDsの併用または非併用でメトトレキサートを投与してみて、それで十分な反応がないのであれば、バイオ医薬品の投与を考えるといい」と米国リウマチ学会は言う。
 例外となるのは、関節の炎症が強くて痛みが激しい場合で、しかも予後が悪いと見られる場合だ。予後が悪いと言えるのは、関節の動きに制約がある場合、関節外側に障害がある場合、血液検査でもリウマチ因子が確認できる場合、骨に損傷が及んでいる場合が対象となる。ここではバイオ医薬品が第一選択になる可能性はある。学会が、あくまで「可能性がある」という表現にとどめていることを強調しておく。
 リウマチは成人ばかりの問題ではない。子供でもリウマチに悩む人はいる。学会は子供のリウマチ性疾患に対するメトトレキサートの使い方についても注意を促している。メトトレキサートを安定的な用量で投与する中12週ごとの毒性検査は必要ないと指摘する。
 子供のリウマチ、「若年性特発性関節炎」でメトトレキサートの投与をしている時、急速に副作用が起こるケースはまれだ。リスクが低いのに1.2カ月ごとに検査するのは、治療を不必要に中断させる恐れがあり、かえって問題になる。頻繁な検査をする場合として学会が勧めるのは、メトトレキサートの投与を開始した時、あるいは用量を増やした後。さらに、肥満、糖尿病、腎臓病、乾癬(※25)、全身性の若年性特発性関節炎、ダウン症の患者のほか、子供なのにアルコール摂取をしている場合、肝毒性のある薬剤や骨髄抑制薬を使っている場合に限るべきだという。

※25 全身に赤みやかさぶたが生じる病気。欧米で比較的多い。本来であれば自分を守るべき免疫機能が自分自身を攻撃してしまう自己免疫疾患と分かっている。

(第42回おわり、第43回へつづく)