室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(33回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)受けたくない医療29【小児科】 腹痛でむやみにCT検査を行わない 米国小児科学会、米国消化器病学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第33回】

受けたくない医療29【小児科】
腹痛でむやみにCT検査を行わない
米国小児科学会、米国消化器病学会

 引き続きになるが、CT検査の問題は腹痛でも触れておきたい。
 日本では画像検査の設備が整っているので、X線検査はもちろん、CT検査は手軽すぎるところがある。だからといって、やみくもに検査を実施していいものではない。
 米国小児科学会は、「子供の腹痛の診断に、CT検査を安易に行ってはならない」と言う。米国でも腹痛の子供を検査しようと、救急部門でCT検査を行う場面が増えているようだ。ほかの疾患と同じように、CT検査は放射線に子供をさらすため、将来的なガンの可能性を高める。過剰な放射線の照射は問題と認識すべきだ。学会は子供の臓器は放射線への感受性が高いため、特に注意すべきと指摘する。CT装置の操作を誤ることで、通常の設定を超えた過剰な照射を受けるリスクも潜在的には存在する。
 米国消化器病学会は、成人も含めて、「国際的な診断基準の『ローマⅢ基準』で機能性の腹痛と診断された場合で、臨床的な診察や症状で大きな変化がなければ、CT検査を繰り返してはならない」と指摘する。ローマⅢ基準とは、精神的な影響を受けて腹痛が起こるようなケースの診断基準となっているものだ。
 学会は「X線にさらされることで、小さいとはいえガンのリスクは明確に高まる」と警鐘を鳴らしたうえで、腹部のCTスキャンを1回撮ると、自然界からの3年分の被曝と同等のX線被曝にさらされるとの根拠を示す。高額な検査費用の問題ももちろん指摘している。「治療方針の変更につながるような有用な情報を得られる可能性がある時に限って、撮影を実施しなければならない」。むやみな腹痛のCT検査は避けるというのも、胸にとどめておきたい。

受けたくない医療30【小児科】
子供の虫垂炎ではCT検査を避ける
米国放射線学会、米国外科学会

 CT検査に関する話が続くが、重要な問題なので項目を分けて紹介していく。虫垂炎、いわゆる「モウチョウ」についてだ。子供によく起こる疾患で、盲腸の部分にある虫垂と呼ばれるリンパ節が腫れる病気だ。昔は右横腹を切っている子供がよくいて、モウチョウになったことがあるかどうかがよく話題になったものだ。最近は薬で治るようになった。
 米国放射線学会は、「子供の虫垂炎が疑われてもCT検査を行う必要はない。まず超音波検査を行うべきである」と言う。超音波検査は放射線被曝を避けるためには有効で、診断の精度も十分に備えている。学会からすれば、子供では超音波検査をまず先に考えるべきであるとする。
 超音波検査の結果からは明確に診断できない場合に、初めてCT検査を検討する。このアプローチは出費を抑えるのはもちろん、潜在的な放射線被曝を減らす。米国外科学会も、「CT検査を虫垂炎と思われる子供に対して行うべきではない。超音波をまず検討すべき」と同調している。
 熟練した医師であれば診断の正確性は高く、虫垂炎がある場合には94%正しく診断可能、ない場合にも94%正しく見極められるという。学会は必ずしも専門的な知識が誰にもあるわけではない点を考慮しながら、超音波検査の検査結果をうまく生かしてCT検査を不要とする努力を続けるべきだと説いている。
 日本の場合、超音波検査の費用が5000円程度なのに対して、CTはその6倍の3万円程度に達する。同じ効果を見込めるのであれば、超音波検査を選ぶ方がお得だろう。

(第33回おわり、第34回へつづく)