室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

頭の外傷や腹痛の検査──そのCT検査は必要ですか?(28回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術
頭の外傷や腹痛の検査──そのCT検査は必要ですか?
頭を打ったからとりあえずCT、は間違い

 転倒するなどして頭を打ったときに、脳へのダメージがないか心配になる、というのは一般的な反応だと思います。大人だと意識がはっきりしていればそこまで心配はしないかもしれませんが、強いダメージを受ければやはり後遺症などの問題がないかと気になるときもあるでしょう。
 一方で、自分の子供が頭を強打したようなときにはどうかといえば、ちょっと事情も変わってきます。子供の意識がはっきりしていても、頭の中で出血などしていないかと気になってしまうものです。
 そういう内部での出血といったような頭の内部のトラブルがないかどうかを調べるときに、日本でもよく使われるのが放射線を使った画像診断です。
 いわゆるレントゲン、X線による検査は特に身近で、健康診断などでもよく行われています。さらに詳しく調べたいときに使われるのが、CT検査となります。
 CT検査は、放射線を体内に照射して、身体を輪切りにしたように見える2次元の映像で観察できるようにする画像検査です。
 日本のCT検査装置の台数は1万台を超えており、海外の先進国と比べても大幅に多いことが知られています。厚生労働省のデータによると、年間の実施件数も3000万件ほどと見られており、これは世界でも突出して多い水準と考えられているのです。
 心配になって医療機関に行っても、まずは症状を聞かれるだけで、中にはCT検査を行わなくて済むというときもあるかもしれません。それでも親が心配したり、医師が診断に慎重を期したいなどの理由から、「念のため」に検査が行われることは多いのではないでしょうか。
 腹痛の場合でも、子供が強く痛がっているときには同じように、「念のため」CT検査が行われることもよくあるようです。

CT検査はできるだけ減らすという大きな流れ

 チュージング・ワイズリーでは、こうしたCT検査の安易な実施に疑問が投げかけられています。できる限り、CT検査を行わないように誘導するというのが大きな流れになっていると言ってもいいでしょう。さまざまな学会から、CT検査の実施を減らすように求められているからです。
 米国救急医学会は、CT検査を行うときの考え方として、軽く頭を打ったときには行わなくてよいと指摘しています。CT検査をするまでもなく、症状などからリスクの軽重は分かるというのです。CT検査を行ったとしても、頭蓋骨の骨折や脳出血を発見できることはなく、むしろ放射線に被ばくするリスクの方が有害だ、と考えているようです。
 米国小児科学会でも、子供の腹痛に関しては、CT検査を行わないように推奨を出しています。また、米国消化器学会は、大人についても、症状からトラブルの中身は分かるので、CT検査を繰り返すことをやめるよう求めています。関連して、米国耳鼻咽喉科学会は、副鼻腔炎に対するCT検査も行わないよう勧めています。いずれも、放射線の有害性を重く見て、そのような判断をしているのです。
 実際、CT検査による放射線は、がんのリスクを高めることが分かっています。日本の公的機関である放射線医学総合研究所は、CT検査1回で受ける被ばく量は、1~30ミリシーベルトと解説しています。
 2012年に英国で、そして2013年のオーストラリアでも、少年期から青年期にかけてのCT検査はその後の白血病や脳腫瘍などがんのリスクが高まることが証明された、との発表がなされています。
 費用の面も無視できません。CT検査には1回当たり3万円ほどがかかります。医療保険で安くなるとはいえ、必要がなければ、その分の医療費を圧縮したくなるのは当然です。「念のため」CT検査を行っておきますか、と聞かれたら、いいえ結構、と断る勇気が求められているのかもしれません。

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