室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(20回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)受けたくない医療10【乳ガン】 乳ガンの温存療法として、安易に「IMRT」を行わない 米国放射線腫瘍学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第20回】

受けたくない医療10【乳ガン】
乳ガンの温存療法として、安易に「IMRT」を行わない
米国放射線腫瘍学会

 IMRTは「強度変調放射線治療」と言って、ガンが身近な人でなければあまり聞くことはないだろう。しかし、ガン治療の分野で関心を集めている治療法だ。
 原理は比較的分かりやすい。ガンは固まって存在しており、形は様々に分布している。放射線治療でガン細胞を殺す時に、このガンの形に合わせて照射しようというのがIMRTだ。日本でも、ガンの放射線治療を専門とする医師の間ではちょっとした「流行」になっている。熱心な医師ほどIMRTに積極的に取り組んでいるかもしれない。
 ところが、米国放射線腫瘍学会は、「乳ガンの温存療法の一部として、乳房の放射線治療を行う場合、IMRTを安易に行うべきではない」と戒める。
 もちろん、学会もIMRTの可能性は認めている。学会は、「臨床研究によると、最新の3次元で照射領域を設定する治療は、2次元で照射領域を設定する方法よりも皮膚への有害性が低いと報告されている」と確認。「ガンの形を3次元で捉えて放射線を当てる方法で治療効果を高められる可能性がある」と指摘する。
 ただ、IMRTがどこまで複雑な形のガンに対応できるかは不明点も多い。学会は、「IMRTは解剖学的に特殊な症例でメリットがあるかもしれない。しかし、広く使って有利であるかはいまだに不明」と結論づけている。
 日本でにわかに人気の高まっている治療だが、「まだ微妙」という評価が存在していることは知っておいて損はないだろう。ガンの種類によっては保険が利かないため、治療費用が100万円前後かかる場合もある。過信はできない。

(第20回おわり、第21回へつづく)