室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(21回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)受けたくない医療11【子宮頸ガン】 HPV検査は30歳以下の女性には行わない 米国家庭医学会、米国臨床病理学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第21回】

受けたくない医療11【子宮頸ガン】
HPV検査は30歳以下の女性には行わない
米国家庭医学会、米国臨床病理学会

 ヒトパピローマウイルス(HPV)は、子宮頸ガンの原因となるウイルスとして国内外で注目されている。日本でもHPVの感染を防ぐためのワクチンが使えるようになって、広く知られるようになった。その後、ワクチンの副作用騒ぎが起きて、厚生労働省が勧奨を中止したのも注目された。
 HPVの検査でガンになりやすいかどうかが分かるというわけで、日本でも子宮頸部の組織を取って感染を調べる検査が広がりつつあるようだ。しかし、米国では若いうちの検査に疑問符がつけられている。米国家庭医学会は、「子宮頸ガンの可能性を判断する目的であっても、HPV検査は30歳以下の女性に対して行うべきではない。単独でも、細胞診と併用でも変わらない」と指摘する。
 HPV検査は女性にとって、かなりの負担になるのは想像できるだろう。そもそも下半身から子宮頸部の組織を取って、検査するのは嫌なものだ。しかも、何らかの異常が疑われれば精密検査を受ける羽目にもなり、コルポスコピー(子宮鏡)(※8)を使った大げさな検査や子宮頸部の生検につながって、さらに嫌な思いをするかもしれない。揚げ句の果てに異常なしと言われれば、目も当てられない。異常と判明しても、心配やストレスの原因になる。30歳以下の場合には、異常が見られても自然と正常化する場合も多く、負担に見合う利益がないと判断される要因だ。
 米国臨床病理学会は同様に、「低リスクのHPV検査は行うべきではない」とも指摘している。HPVには高リスクと低リスクの型がある。このうち低リスクのHPVについては検査する必要がないとの勧告だ。
 学会のガイドラインでは、HPV検査は細胞診で異常がある患者をはじめ、一部の条件を満たす患者に提供すべきだとしている。高リスクHPVが見つかれば、コルポスコピーや組織を取る検査を頻繁に行う必要も出てくる。一方で、低リスクHPVは生殖器にいぼを作ったり、子宮頸部に小さな細胞変化を起こしたりするだけで医学的な意味はない。検査を行っても、感染が疾患の進行と関係がなく治療を行う必要もない。
 子宮頸ガンの検診そのものについては、高齢になれば不要になるとの指摘もある。米国家庭医学会は、「65歳以上の女性では、過去に適切に検診を受けてリスクを指摘されていなければ、子宮頸ガンの検診を受ける必要はない」と指摘。臨床研究に基づき、リスクを伴わない場合には「検診を受けてもほぼメリットはない」と断じている。

※8 いわゆる胃カメラのように、カメラの部分が先の細い形になっていて、膣から挿入できるようになっている。カメラで撮った映像はリアルタイムで外のモニターに拡大像として映し出されるので、子宮の入り口の部分にガンで見られるような異常があるかどうかを判別しやすくなる。

受けたくない医療12【子宮頸ガン】
子宮頸部の綿棒による
かき取り検査(細胞診)は安易に実施しない
米国家庭医学会、米国産科婦人科学会、米国婦人科癌学会

 子宮頸ガンは女性にとって重要なガンで、主な検査法として、綿棒を膣に入れて子宮頸部の細胞をかき取って調べる検査「細胞診」がある。パップ検査と呼ばれることもある。検査そのものは比較的簡単なので普及しているが、あまり受けたくない検査だろう。
米国家庭医学会は、「細胞診は21歳以下の女性には実施してはならない」と指摘。さらに「ガン以外の理由で子宮を全摘した女性にも実施してはならない」とも言う。理由としては、成人女性で細胞診に異常が見られてもほとんどは自然に消失するからだ。
 学会は「細胞診は21歳以下の女性には無用な心配を与えたり、余計な追加検査や出費を強いたりするだけで避けなければならない」と説明している。ガン以外の理由で子宮摘出を受けた女性にも、「効果がある」と臨床研究で示されたことがない。
 米国産科婦人科学会は、より高い年齢層でも繰り返しの細胞診を行うべきではないと指摘する。「30~65歳の女性に対して細胞診を毎年する必要はない」というものだ。「平均的なリスクの女性は、毎年、子宮頸部の検診を行う必要はなく、3年間ごとに検診を受ける場合と比べて、毎年検診を受けたからといってガンを見つけやすくなるわけではない」と説明している。臨床研究に基づく見方である。健康な女性の場合、検診ではなく、毎年医療機関を受診して問診を受けたり、膣内の内診を受けたりすることには意味があるという。
 近い問題として、子宮内膜ガン(子宮体ガン)治療後の細胞診も無用である可能性が高いようだ。心配する向きもあるかもしれないが、米国婦人科癌学会は「子宮体ガンの治療を受けた女性に、細胞診の検査をしても意味はない」と断じる。実際、子宮の入り口の部分の組織を取ってガンの再発を見ようとしても、ほとんど見つからないという報告がある。再発が発見できる確率は0.4%の範囲と惨憺たる状況。むしろガンがないにもかかわらずガンがあると結果が出て、コルポスコピーの精密検査や組織を取る検査を余計に強いてしまうと指摘している。

(第21回おわり、第22回へつづく)

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