室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(19回) 『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)受けたくない医療8 【乳ガン】 早期乳ガンで50歳を超える患者の場合、 放射線治療はできる限り短期にするよう配慮せよ 米国放射線腫瘍学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第19回】

受けたくない医療8 【乳ガン】
早期乳ガンで50歳を超える患者の場合、
放射線治療はできる限り短期にするよう配慮せよ
米国放射線腫瘍学会

 
 年齢を重ねるとガン治療の負担感も増す。より治療を軽くできないかを考えるのは重要だ。
 米国放射線腫瘍学会は、「乳ガンの放射線療法を始める際、50歳を超える女性で早期ステージ(※7)の場合、まずは従来よりも短期の治療計画を検討すべき」と指摘する。
 乳房全体の放射線照射は、局所の再発を減らし、温存療法を受けた侵襲性のある乳ガンで生存率を改善する効果がある。ただ、ほとんどの臨床研究は「分割照射」が前提で、5.6週間の治療期間を置くことが多い。そのうえで、場合によって1.2週間の追加治療を実施するという方法だ。
 もっとも、最近の臨床研究によると、さらに短期間の治療でも十分な治療効果と整容性を実現できると分かってきた。具体的には4週間程度の治療で済む。整容性とは乳房の形をきれいに保つ性質を指す言葉で、元のおっぱいのままでいられるかどうか。女性にとっては言うまでもなく重要なことだ。患者と医療従事者は互いに短期オプションを検討し、最も適切な治療計画を選ぶべきである。
 日本の場合、放射線による治療は総額で50万円ほどかかり、ある程度経済的な負担も伴うものだ。3割負担になるとはいえ、短期間に抑えられれば出費の面でも助かる。効果が同じであれば、なおさら短期を優先的に考えた方がいい。

※7 あえて分かりやすく言えば、「おっぱいの内部にとどまっている場合」を早期ガンと呼ぶ。おっぱいの外にガンが広がって、脇の下のリンパ節にガン細胞が至ったり、さらに広がって全身の他の場所にガン細胞が至ったりすると、進行したガンと判断する。

受けたくない医療9 【乳ガン】
転移のある乳ガン患者は単独薬剤で治療を
米国臨床腫瘍学会

 ガンというと、複数の薬を使わなければならないかと言えば、そうではない。
 米国臨床腫瘍学会は、「転移を伴う乳ガン患者に対して、腫瘍関連の症状を急いで緩和
するのでなければ、単独薬剤による化学療法を優先せよ。多剤を使った併用療法を実施すべきではない」と求めている。
 転移を伴う乳ガンに対して、多剤を使った化学療法、すなわち併用化学療法を実施した場合、腫瘍の増殖を遅らせ、単剤で治療するよりもガンの増殖を抑える可能性はある。一方で、腫瘍の増殖を抑えたからといって、死亡率を下げられるかと言えば、そうでもない。生存率を高められるかどうかは別の話である。これまでの臨床研究によると、薬をたくさん使ったからといって、生存率を高められるとは示されていない。
 複数の臨床研究をまとめて検証した2013年の報告によると、単剤の方がガンの進行がない期間は長かった。最終的に生存率では差はないものの、発熱のような副作用も少なく、複数の薬を併用するよりも生活の質が快適になる可能性もある。
 実際、併用療法によって頻繁でかつ重い副作用が、いわば「トレードオフ」で起こる可能性がある。腫瘍は小さく抑えたものの、副作用がきつければ患者の生活の質を悪化させるだけで本末転倒だ。結果として、化学療法の用量を減らすことになれば元も子もない。
 つまり、併用療法はガンの負担を急速に軽減したい場合にとどめるべきということだ。もちろん、急ぎであれば、副作用のリスクに見合う効果もあり得るが、単剤で投与する方が、副作用のリスクを減らし、患者の生活の質を向上させることができる。

(第19回おわり、第20回へつづく)

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