【第27回】
受けたくない医療21【ガン治療】
抗ガン剤と一緒に強い吐き気止めを安易に使わない
米国臨床腫瘍学会
抗ガン剤の副作用というと、吐き気や嘔吐を思い起こす人も多いだろう。しかし、米国臨床腫瘍学会は、「ガン患者に抗ガン剤を使う場合、吐き気を催したり、嘔吐したりする恐れがないと判断できたならば、強い吐き気止めを使うな」と要請している。
これまで抗ガン剤が起こす吐き気や嘔吐を止めようと、より効果が高く、副作用も少ない吐き気止めの開発が進められてきた。吐き気止めが効けば、患者の入院の回避につながって、患者の生活の質も改善、抗ガン剤を減らしたりやめたりする必要もなくなってメリットは大きい。
ガン医療に携わる医師ら医療従事者は、習慣的に複数の制吐薬を嘔気嘔吐の可能性に従って使い分けている。吐き気や嘔吐を起こしやすい抗ガン剤は、既にその種類が分かっている。継続的に吐き気や嘔吐を起こしやすい治療でも、抑制可能な新しい吐き気止めも出ている。
ただ、新しい薬剤は副作用が確かに少ないものの、高額である場合が多い。従来型の吐き気止めは1回当たり1000円程度なのに対して、新型は3000~5000円程度という違いが出る。学会は、高額な薬剤をむやみに多用する方針には異を唱える。あくまで吐き気や嘔吐が強く、あまりに続く時に限るべきだとする。吐き気や嘔吐を起こしにくい抗ガン剤であれば、低価格で十分に効果的な吐き気止めがあると説明している。
出費をいとわない人はいるだろうが、知っていて損はない知識だろう。
受けたくない医療22【放射線治療】
ガンの骨転移に対する放射線治療の回数は少なめに
米国放射線腫瘍学会、米国ホスピス緩和医療学会
ガンの転移で、とりわけ痛みの原因となるのが骨に転移した場合だ。その痛みを取るためには放射線治療が有効だが、1回だけという人から30~40回と複数回受ける人もいて、照射を受ける回数をどうするかは大きな関心事になる。だが、米国放射線腫瘍学会は「ガンの骨転移に対する放射線治療は、10回を超えて行うべきではない」と指摘する。
臨床研究の結果に基づいて、ガンの痛みを取る目的で放射線治療を行う時、回数を重ねても意味はないというコンセンサスができつつある。学会は、痛みを取る効果は10回以上繰り返したところで改善しないと説明する。多数の研究をまとめた2012年の報告によると、1回だけ放射線を当てる場合と複数回当てる場合で痛みへの効果は変わらないと結論づけている。
もっとも、ガンを小さくするという目的で見れば、何度か放射線を当てた方がよい面もある。痛みでは効果は変わらないけれども、ガンを小さくする効果では好ましいという報告が出ているからだ。
単回照射の場合は簡便であるものの、同じ部位の放射線照射をもう一度必要とする可能性が高くなる。ガン縮小効果を視野に入れた時、1回の照射で治療を組んだ場合、再び治療する患者の割合が20%に達するのに対して、複数回で治療を組むと8%まで下がる。患者に残された命がどれくらいなのか、あるいは体力を落としてかえってガンを悪くする可能性、現実的な治療を受けられる時間的、金銭的な余裕も考えながら治療計画を立てなければならない。
「疼痛(※17)については効果に差がなく、ガン縮小効果でのみ意味がある」ということを踏まえれば、予後が限られていて、ガンの治癒が想定できないような患者で、しかも移動も難しいような場合ならば、何も複数回の治療の手間を取ってもらうのは得策とは言えないかもしれない。何度も治療のために病院に通う負担を避けるため、単回で済むのならばそうすべきだと学会は考えている。
同様に米国ホスピス緩和医療学会は、「骨転移に対する放射線治療は重症度が低く、痛みを伴う場合の緩和目的の照射であるならば、1回を超える回数は行うべきではない」と指摘している。やはり死の迫った患者を対象とした「緩和」のために行うならば、疼痛軽減の観点で意味を持たない複数回の照射はもはや必要がないというわけだ。単回で一定の痛みを取るのが賢明と見ている。
学会は、「米国放射線腫瘍学会の2011年のガイドラインで示された通り、放射線治療を受けたことのない骨転移や脊椎転移に対して、1回だけの照射と複数回の照射では痛みを抑える効果、病気を抑える効果に差がない」と説明する。患者や介助者の双方にとって1回だけの照射が好ましいと見ている。余命が長い場合には複数回が好ましい可能性はあるものの、余命の限られた患者にとっては負担が軽い方が好ましい。
治療費用も見逃せない問題だ。日本であれば、1回の照射に2万円ほどかかる。治療回数は少ない方が金銭的な負担も軽い。
※17 とうつうと読む。痛みのこと。
(第27回おわり、第28回へつづく)