【第11回】
帝王切開が増えているのはなぜか
リスクを避けるために、必ずしも必要のない医療に走る動きもある。
例えば頭を打った時のCT検査は、まひのような重い症状がなければ不要とするデータが存在しているにもかかわらず、それでも全国的に横行している。風邪の場合も、呼吸器への細菌感染が認められなければ、抗菌薬の投与は不要だ。こちらも日本では当然のように広がっている。
この裏には、「もしかして脳内出血があって後から患者から責められると問題だ」「仮に風邪が早期に悪化して肺炎を引き起こして重症化したら問題だ」と考える医療側の姿がある。ごくまれなリスクに過剰に反応して無用な医療に走ってしまうわけだ。
意外なところでは、帝王切開の増加が当てはまる。帝王切開が日本を含めて世界的に増加している。米国のデータでは2003年に26%だったのが、2009年には36・5%まで急増している。日本でも同じように増加の軌道をたどっている。
背景の一つには、出生前後のリスクを回避する医療側の動きがある。
経膣分娩が長時間にわたり、新生児が低酸素にさらされれば脳性まひのリスクは増えるので、そのリスクを避けるために一定の時間内で出生させられる帝王切開が広がっているのだ。単純化して言えば、「訴えられると怖いから安全策を取る」ということ。医療機関にとっては、出産に関わる医療で訴訟を起こされてはイメージに大きな傷がつく。万が一にも事故が起きて訴えられるくらいなら、帝王切開を選んだ方が得策と考える。
確かに、出産にはリスクを伴う。公益財団法人日本医療機能評価機構の産科医療補償制度運営委員会の資料によると、国内の新生児に脳性まひが起こる確率は1000人当たり1.3人。多数の分娩を受け持つ医師であれば、必ず直面する。
ただ、帝王切開をすれば危険がなくなるわけではない。大出血や感染症など別の危険が加わる恐れもあるので、無用な帝王切開は回避した方がいい。
米国の報告によれば、高いリスクの伴う出産に限らず帝王切開は増加しており、その中には母親の要望で帝王切開になるケースも増えている。もちろん、母親の骨盤サイズが小さかったり、胎盤の位置が問題になっていたりすれば帝王切開を採用すべきだが、必ずしも必要のない帝王切開も増えていると見られている。
分娩の関係で医療側が患者側から訴訟を起こされる事例は珍しくはない。日本では全国規模の補償制度が発足して訴訟こそ減っているが、事故が起こる状況そのものは変わらない。その逃げ道として、帝王切開が正しい道であるとのコンセンサスはない。
帝王切開ほど分かりやすくなくとも、様々な診療科で「念のため」と検査や治療が行われる。医師がそうした検査や治療が「治る医療」にはつながらないと知っている場合も少なくない。
(第11回おわり、第12回へつづく)