【第22回】
受けたくない医療13【子宮頸ガン】
コルポスコピーは、子宮頸ガンの経験がある場合も安易に行わない
米国婦人科癌学会
人間ドックの女性向けのプログラムとして、子宮頸ガンの検査は一般的に取り入れられている。子宮頸部は膣からも確認できる部分で、女性にとっては身近な検査と言えるだろう。人間ドックでは、問診のほか、肉眼での診察、細胞診、コルポスコピーによる観察がよく行われている。
子宮頸ガンは、子宮と膣との間にある入り口部分で起きるガンのこと。最近では、感染症であるHPVとの関係が指摘されており、ワクチンの接種も始まっている。一方の細胞診とは、膣に綿棒を入れて子宮頸部の細胞をかき取って、顕微鏡で細胞を観察する検査のことで、ここから異形成(※9)を判定して、ガンに近いかどうかを確認する。コルポスコピーは、膣からチューブ状のカメラを挿入して内部を観察する検査である。
米国婦人科癌学会は「Choosing Wisely」で、「たとえ子宮頸ガンの経験がある人でも、細胞診の検査で『低グレード』あるいは『扁平上皮内病変』よりも低リスクと判断できたならば、コルポスコピーを、実施してはならない(※10)」と促す。
一度、ガンになった人は再発が懸念されるが、コルポスコピーを使った検査は再発の可能性が低いならば無用だと学会は見る。低グレードの異常に対して行ったところで、肉眼で病変がないと判断できれば結局検出できないという理由からだ。結果として、「患者の出費を強いるだけ」と学会はそっけない。コルポスコピーの検査そのものは実施する内容次第で5000~1万円ほど。病院で受ける検査や治療としてはそれほど高額ではないが、意味がないならば受けないに越したことはない。
※9 異形成とは、ガンのような特徴を示す細胞の状態を言う。段階があって、細胞の形や細胞内の核の形などの異常性が高まるほどガンの可能性も濃厚になる。
※10 子宮頸ガンの検査では、子宮頸部の細胞をかき取り、細胞全体や細胞の核の形などから悪性度を調べる。細胞の形から判断してガンの一歩手前と判断できれば低グレードあるいは「扁平上皮内病変」と呼ぶ。扁平上皮内病変と呼ばれるのは、子宮頸部の細胞のうち、ほとんどのガンは扁平上皮と呼ぶ組織から発生するため。
受けたくない医療14【卵巣ガン】
卵巣ガンの検査は健康な女性に行わない
米国婦人科癌学会、米国産科婦人科学会
卵巣ガンは早期に見つけたい。といっても、検診したからいいというものではない。米国婦人科癌学会は、「卵巣ガンの検査のために、 『CA.125検査』や『超音波検査』を低リスクの女性に実施してはならない」と言う。
CA.125は、ガンが体内で増えた時に血液の中に増えるといわれるタンパク質。超音波検査は健康診断でもおなじみの検査だろう。膣の中に器具を入れて卵巣の異常を調べるのだが、こういった検診を、若かったり身内にガンがいなかったりという低リスクで、しかも無症状の女性に対して実施しても、卵巣ガンの早期発見や卵巣ガンによる死亡率の低下にはつながらないと分かっている。
日本でも人間ドックに行けば、女性向けのコースメニューに双方の検査項目が並んでいる。比較的手軽に分かるので、やって損はないとも見えなくはないが、そもそも行う意味のない場合も多い。心配でも、あらためて立ち止まって考えたいところだ。
それどころか、ガンがないにもかかわらず検査に引っかかり、無用な精密検査をすることになったり、そのために合併症のリスクを高めてしまったりする可能性がある。米国産科婦人科学会も、「平均的なリスクでかつ無症状の女性に対して、卵巣ガンの検診を実施してはならない」と勧告している。
臨床研究によると、無症状の女性で、CA.125の血液検査の値を調べたり、超音波検査をしたりすると、検診をしないよりも卵巣ガンを早い段階で調べられるとの根拠はある。ただ、卵巣ガンは罹患率が低いため、ガンが見つかる人よりも、検査で無駄な負担を強いられる人が多くなってしまい、結果として、利益よりも不利益が大きいと結論づけている。なかなか難しいものだ。
(第22回おわり、第23回へつづく)