室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

病院での治療──入院中の寝たきりは禁物(47回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査してはいけない手術
病院での治療──入院中の寝たきりは禁物
100人に1人が入院している時代

 病院での治療を受けるときは、どのように過ごすとよいのでしょうか。厚生労働省の患者調査によると、2014年の調査日において、入院をしている人は131万8800人に及んでいます。日本人のおよそ100人に1人が、今この瞬間も入院している、ということになります。
 年齢別で見ますと、入院している方々の半数以上の93万7300人が65歳以上となっています。入院の理由で一番多いのは、じつは統合失調症など精神及び行動の障害で26万5500人、続いて脳血管疾患などの循環器系の病気で24万100人。さらに、がんの14万4900人などと続いています。
 当たり前ですが、入院に至ったその理由はさまざま。入院している方たちをひとくくりにどうこう言うことはできませんが、一般論として、動かずにベッドで寝ていた方が病気やけがの回復は早い、と考える人は多いかもしれません。

妊娠中もアクティブに

 とはいえ、現在の世界の医学界は、入院について少し慎重さを求めるようになってきているようです。特に、入院中ベッドに寝たきりになっている時間が長くなることについて、かつてより問題視する向きが強くなってきています。
 米国看護学会は、入院中の寝たきりや座りっぱなしをやめるように勧めています。「いや入院中なのだから、寝ていなければならないでしょう?」そんな突っ込みも聞こえてきそうですが、現実には、ちょっと休みすぎという面があるのも確かなのです。本当はもう動けるのに、楽だからという理由で患者を寝たきりにさせておく病院は多く、また患者本人もそのほうが心身ともに負担がないのでベストの治療法だと信じていることもよくあります。ですが、ある程度体力が回復しているのであれば、そのままでいるのはいけないよ、というのがチュージング・ワイズリーの言わんとするところです。頑張って、床から起き上がり、立ってみる、散歩してみるといった行動に移ることで、実は病気からの回復は早まるということが分かってきています。
 その問題を示す一例として、入院した高齢者の65%が入院している期間に歩く能力を失っている、というデータがあります。入院中にはじっとしているのではなく、むしろアクティブに動くことこそが大切だと考えられるようになっているのです。入院中に寝たきりにされていたばかりに歩く力が弱まってしまったら、その後に介護の必要性が高まってしまったり、転倒しやすくなってしまったり、さらには死亡のリスクが上がったりすることさえあるといいます。
 また米国産科婦人科学会は、妊娠中の入院時においてもベッドでの寝たきりを避けるように強調しています。どんな場合でも、妊婦は基本的には活動的でいた方がよい、というのです。ベッドで安静にしていたからといって、出産がよりうまくいくという根拠は何もないと断言しています。これも先ほどの入院のときと同じように、いや母子に負担でしょうという声も聞こえそうですが、休ませすぎという点が問題になるのです。妊娠すると、周囲が安静を勧めて、運動から遠ざかってしまう。そうではなく(もちろん運動の程度には注意する必要はありますが)、積極的に動いた方がよいという考え方が浸透してきているのです。運動しないとむしろ、筋力が落ちたり、血栓症になったりするリスクを高めてしまうので良くないとの指摘すらなされています。
 腰痛でも同じです。米国物理療法リハビリテーション学会は、腰痛になったときに、ベッドでの長期にわたる休養をとることは避けるように、と注文をつけています。2日を超えるようなベッドでの休養をとったとしても腰痛後の身体機能や痛みが改善するという医学的な根拠はない、ということのようで、けがが原因ではないならば、休むとしても48時間までにとどめるように求めています。
 ケースバイケースだとは思いますが、とにかくベッドで休んでいるのが一番、という考え方はすでに過去のもの。入院という選択肢があるときも、「いや待てよ」と立ち止まってみることも大切になるでしょう。そもそも日本は入院日数が海外と比べても長いことがよく知られています。第1章で述べたように、「社会的な入院」が社会問題になるほど、かつて日本においては医療機関の経営的な利益のために不必要な入院を多くの人々に強いる状態になっていました。入院して休んでいるのは楽ではありますが、長期に入院することが最善という考え方は、世界の医療水準に照らして決して主流とは言えません。こういった点から「入院」というものを考え直すことにも意味はあるでしょう。

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