室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

腰痛の検査───腰痛の検査に待った!(30回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術
腰痛の検査───腰痛の検査に待った!
検査は当たり前ではない

 人は背骨を立てて、2本の足で歩いています。背骨は上から頸椎、胸椎、腰椎となり、この腰椎付近に痛みを感じるのがいわゆる腰痛となります。日本人がかかえる自覚症状の中で、何が最も多いかという話で必ず出てくるのがこの腰痛です。自覚症状の割合でいけば、まず男性で最も多いのが腰痛で、おおむね10人に1人が腰痛持ちであることが厚生労働省の調査から分かっています。女性では、肩こりに次いで多いのがやはり腰痛で、およそ10人に1人程度が腰痛持ちです。悩みを感じる人の数では肩こりと大差はありません。
 腰痛がひどくなると座っていられなくなるほどで、日常生活に支障が生じてくることも。耐えられない痛みとなったときには医療機関を受診する人も多いはずです。厚生労働省の患者調査によると、2014年の調査日に腰痛および座骨神経痛で医療機関を受診していた患者数30万5000人です。医療機関に行くと、問診を受けて、ケースバイケースではありますが、さらなる検査を受けることにもなります。腰痛の原因としてはさまざまなものが挙げられますから、レントゲンなどを行うことで、骨の異常などを調べる、ということになるでしょう。場合によっては、CT検査やMRI検査などの、さらに詳細を調べるための検査が行われるかもしれません。

腰痛のレントゲンには風当たり強し

 しかし、チュージング・ワイズリーでは 腰痛に対する検査には厳しい目を注いでいます。米国家庭医学会、北米脊椎学会、米国内科医学会、米国救急医学会、米国脳神経外科学会、米国脳神経学会コングレスなどの団体から、X線検査をはじめ、CT検査やMRI検査を行うことに慎重になるべきだという見解が出されているのです。
 どの学会もおおむね画像検査をしてもいいというスタンスではあります。ですが、安易にX線検査をはじめとした画像検査を行うべきではない、やるとしても一定の条件をクリアしない場合には行うべきではないというのです。
 例えば、米国脳神経外科学会は、次のような点をチェックしてほしいと条件をつけています。まず、身体に衰弱が見られたり、しびれが見られたりするとき。腸や膀胱の働きに異常が見られるとき。発熱をしているとき。がんになったことがある人。静脈に薬を注射しているとき。免疫抑制薬やステロイドを使っているとき。骨粗鬆症になっているとき──です。こうした条件に合致するときにのみ画像診断をすべき、としています。
 ほかの学会でもおおむね同じような条件があるときを「赤信号」とみなして、画像検査をするべきと指摘しています。米国家庭医学会は、症状の重さ、神経的な症状、骨や筋肉の炎症があるほか、けがを負っている、体重が減っている、年齢が50歳以上といった条件も加えています。そうした症状がなく、腰痛が6週間以内であるならば、画像検査はいらないと指摘しているのです。
 北米脊椎学会も米国家庭医学会と同様な指摘をしており、6週間以内に赤信号も点灯していないのに画像検査をしても、腰痛にとって良いことはなく、ムダな出費につながるので不要であると断じています。

ぎっくり腰でも考え方は同じ

 ぎっくり腰でも同じような指摘がなされています。ぎっくり腰は、専門用語では急性腰痛と呼ばれています。腰に強い力がかかったときに、腰が崩れるような感覚を覚えて、立てなくなるような衝撃を感じるものです。経験したことのある人ならばよく分かるのではないかと思うのですが、初めて経験したときには何が起こったか分からず戸惑ってしまうものです。
 それが米国職業環境医学会によると、ぎっくり腰でも、真っ先にレントゲンを撮る必要はないと説明しています。それどころか、先に述べたような赤信号となる条件を満たしていたとしても、すべての人に画像検査をするような意味はない、というのです。レントゲンはぎっくり腰の治療のために最低限行うべき検査にはあたらない、と厳しい見方をしているわけです。放射線を使った検査は、身体に知らないうちに負担を与えています。被ばくの有害性もありますし、出費もかかるわけですから、不必要であれば、避けるに越したことはありません。
 日本では画像検査がごくごく普通に行われていますが、そのリスクは無視してよいものではありません。この検査に意味がそもそもあるんだっけ? と疑問を持つ姿勢が大切です。