室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

避妊──ピル処方に膣内診は必要?(26回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

避妊──ピル処方に膣内診は必要?
妊娠を避けるためのごく一般的な方法

 女性の医療について大事なことをもうひとつ。妊娠を避ける、つまり避妊にまつわる検査についても、今の日本で一般に行われているものに対して疑義が付されています。そもそも妊娠とは、受精から出産までのプロセスで、精子が卵子と融合して受精卵となり、子宮の中に着床し、胎児が育ち、出産に至るまでを指すもの。妊娠するためには女性の卵巣で卵子が成熟して、排卵される必要があります。逆に妊娠したくないときには、排卵しないように止める処置を行うことになります。
 女性が排卵するのは、女性ホルモンの決まったサイクルが繰り返され、それに合わせて卵巣で卵子が育っているからです。エストロゲンの濃度が高まり、徐々に卵子が育ち、一挙にエストロゲンが出たところで、卵子が放出されて、次はプロゲステロンの濃度が高まってくる、というのがサイクルです。
 避妊をする方法にはいろいろありますが、一般的な方法が経口避妊薬、いわゆるピルを飲むことです。エストロゲンとプロゲステロンが配合された薬を飲み続けることで、排卵を起きにくくし、結果的に妊娠するのを避けることができるようになります。経口避妊薬は薬の処方になりますから検査を行うことになります。
 ピルの処方の際に、膣の内診が行われることになるのかを気にする女性も多いようです。膣の内診とは、医師が指で膣の中の状態を診察する方法です。ピル自体はごくありふれたものになってきているとはいえ、そのためにわざわざ内診を受けるのは面倒、恥ずかしい、嫌だなと感じる人がいても不思議ではありません。ほかにも子宮や乳房などの身体検査などを行うのかを気にする女性もいます。

身体的な検査は不要

 ですが、現在の医療の世界では、ピルの処方を受けるときに膣の内診などの身体検査は不要である、と言われています。米国家庭医学会が、経口避妊薬の処方にあたって、膣内の内診をはじめとした身体的な検査は必要ではない、としているのです。経口避妊薬が女性の健康に及ぼす悪影響は小さく、安全であり、利益が高いと考えられるからです。臨床研究によると、膣ばかりではなく乳房への悪影響もないことが証明されており、膣や乳房の身体検査は不要だ、という説明がなされています。子宮頸部や性感染症の検査も同じです。研究報告では、それぞれの検査そのものは大切ではあるものの、経口避妊薬を行ったほうがいいのか、行うべきではないのかという判断の参考になるような情報はそうした検査からは出てこない、と結論づけています。
 米国家庭医学会が行うべきとしているのは問診と、必要に応じての血液検査。ピルを使いやすくすることこそが、女性の健康につながる、という考えのようです。

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