室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(10回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019) 第2章 エビデンスが突きつける 「その医療、まだ続けますか」 2013年の米国の医療事情

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

第2章 エビデンスが突きつける
「その医療、まだ続けますか」
2013年の米国の医療事情

 2013年のことでした。米国の医学会の動向をいつものようにチェックしていると、見慣れない言葉が目に入ってきたのです。
 「チュージング・ワイズリー」という名の“キャンペーン”とありました。
 日本語でキャンペーンといえば、何かの商売のイベントのようなイメージもあります。ですが、医学会が行うキャンペーンということから、製薬会社などの営利団体がリードして一緒に活動でもしているのだろうか、というような印象を受けました。ですが、そうではありませんでした。
 最初に見たのは米国不整脈学会だったと思いますが、「ムダな医療の5つのリスト」と題して、必要性に疑問がある医療行為を発表するというものでした。
 私は、ムダな医療を医学会から発表するなど、変わった試みだなという感想を持ったものの、その時点では取り立ててそれ以上、調べることはしませんでした。
 ところが、それからほかの学会からも同じくチュージング・ワイズリーなるキャンペーンと銘打って、その分野におけるムダな医療の5つのリストを発表する動きが続いたのです。米国皮膚科学会、米国産科婦人科学会などが続いてリストを発表していました。ちょうど2013年は、世界の精神医学の考え方を塗り替えるほどのインパクトを持つ「DSM?5」と呼ばれる精神疾患のルールを米国精神医学会が発表したところでした。そんなこともあり、当の米国精神医学会がチュージング・ワイズリーのリストを発表していると知ったときには、とりわけ強い意外感を持ったのを覚えています。
 しかも、それぞれの医学の専門領域会で、比較的当たり前に行われている医療行為について、明確に「必要ではない」と断じていたのです。「頭を打ったときにCTを撮らない」「症状がないのにがんの検査をしない」といった具合です。
 私はこの動きがいやおうもなく気になり、さらに深く調べていったのです。そうして、だんだんと全容をつかんでいくことができました。
 チュージング・ワイズリーとは、米国内科専門医認定機構財団(ABIMファウンデーション)と呼ばれる組織が主導して、全米の医学会と一緒に不必要と考えられる医療行為を指摘していく活動のことを言います。そもそもこのチュージング・ワイズリー(Choosing Wisely)とは、「賢い選択をする」という意味です。医療従事者と患者の双方にとって過剰あるいは無意味な医療行為はやめよう、自ら行っている医療行為が必要なのか不要なのか再点検しよう、もしもムダであると考えられるならば、そんな医療行為はもう終わりにしよう、という意図がこめられていたのです。この活動に参加する医学会の所属医師を考えると、全米の医師の8割近くが参加する、大きなインパクトを持った運動だったのです。

(第10回終わり。第11回に続く)

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