室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(8回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019) ムダな医療を防ぐ手段とは?

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術
ムダな医療を防ぐ手段とは?

 国際的に見ると、こうしたムダな医療を防ぐには、診断や治療の根拠に目を向けることが重視されるようになっています。根拠とは何かと言いますと、研究の成果です。人々が診断や治療を受けた結果として、その後に何が起きたのか、ということを統計的に確認するような研究が世界中で行われています。この結果を参考にして、診断や治療にメリットがあるのか、デメリットがないのかを考えることができます。そうすれば、ムダな医療を避けることが可能となるのです。
 こうした研究の結果を検討し、普段の医療に生かせるようにした情報は、「エビデンス」と呼ばれています。
 エビデンスには、レベルがあります。信頼度の高いエビデンスと信頼度の低いエビデンスがあり、偏りのない比較を行うほど、エビデンスの信頼度は高まってきます。さらに、複数の研究結果をまとめて分析したものは、より偏りが少なくエビデンスとしての信頼度が高いと見なされています。しっかりしたエビデンスに基づいた判断をすることで、ムダな医療を防ぐことができるようになるのです。
 では、そのような医学的エビデンスなんてどうやって素人が調べるのか、という点が次の疑問になるでしょう。確かにハードルが高いのは事実です。
 まず、多くの研究が英語で報告されているという壁があります。もちろん医学的な内容なので、英語が分かったとしても、それを理解するのが難しいという問題もまたあります。よっぽど変わった研究結果であれば、ニュースなどで報道されることもまれにありますが、普段受けている診断や治療についての研究報告を調べあげるのはなかなか骨が折れますし、日頃から論文を読み慣れていない人がやるには至難の業であるのは確かです。医療従事者でさえ一つ一つをチェックしていくのは骨が折れることでしょう。

(第8回終わり。第9回に続く)