室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(6回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)ムダな医療と情報の渦

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術
ムダな医療と情報の渦

 日本では、高齢化にともない医療を受ける当事者の数が増えています。後ほどご紹介していきますが、入院や外来で医療にかかる人は年々増えており、自分の問題となることで、医療への関心も高まっています。

 私がムダな医療についての書籍を書いていた2014年ころは、一般の医療への関心の高まりを感じ始めたような時期でもありました。当時世の中では、STAP細胞と呼ばれる、どんな細胞にでもなれるという「万能細胞」についての研究の不正がメディアを賑わせていました。私などはこの騒動のときはその事件の成り行き自体よりも、テレビなどでの異常なまでの報道の過熱ぶりを見て、医療への関心がここまで世の中で高まってきたのか、というところに興味をおぼえていました。

 それから5年が経過し、世間の医療への関心はますます高まっていることを肌身に感じています。私は週刊誌の企画への協力をすることがあるのですが、2013年ころは数カ月に1回くらい医療についての大きな特集があるという状況だったのに、それが、2018年になるとほぼ毎週、医療企画が必ず展開されるように変わり、私が協力する頻度も大幅に増えました。

 厚生労働省の「受療行動調査」では、継続的に医療に対する満足度を調べています。最近の調査では不満を持っているかという聞き方はしていませんが、満足度を調べており、医療への全体的な満足度は上がっている傾向はあるものの、一定の不満を持つ層は存在していると示されています。2011年の調査では、医療に不満を感じて診断や治療の内容について医師に相談した人が一定数いると分かります。

 この調査で示している診断や治療の内容についての相談の詳細は分かりませんが、「命にかかわる場合の相談」と、「命にかかわらない場合の相談」があると考えられます。診断や治療についての相談で、全く命にかかわらないという相談はないのかもしれませんが、脱毛の方法のような相談はすぐに命を左右するようなものではないでしょう。一方で、命にかかわる場合の相談は、結局、診断や治療の必要性にかかわるものが多いのではと想像します。ある検査を受けた方がいいのかどうか、治療を受けた方がいいかといった相談です。そうして考えますと、厚生労働省の受療行動調査の中で浮かび上がった不満というのは、ムダな医療と無縁ではないのだろうと考えています。自分が受けている医療行為にどんなメリットがあって、またデメリットはどれほどなのかというところがよくわからない、というのが人々の不満にもつながっているのだと考えています。

 私の経験でも、こうした相談が寄せられることがときどきあります。やはり医療のメリットやデメリットについて知りたいというものです。インターネット上には多くの情報があり、みなさん目を皿のようにして探していますが、情報の渦の中で立ちすくんでいるというのが現状だと思います。この現状を「カラオケの曲数が多すぎて、何を歌えばよいかが分からない」とある医師は表現していました。

(第6回終わり。第7回に続く)

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