室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(2回)『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)第1章 こうして医療にムダがはびこる ムダな医療には3パターン

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術

ムダな医療には3パターン

 まずそもそもムダな医療とは何でしょうか。私は3つのパターンに分かれていると考えています。

 1つは「メリットよりもデメリットが大きい場合」。2つ目は、「メリットがそもそもない場合」。最後は、「デメリットが大きすぎる場合」です。それぞれ意味は近いので、もちろん重複しているところがあります。ですが、あえて分けてみました。ムダな医療を考えるときには、このような考え方で見ると分かりやすいのではと思うからです。

 国際的には1998年にオーバーユース、つまり過剰な医療についての論文が出ており、その中ではここでお伝えした第一のパターンの「メリットよりもデメリットが大きい場合」をオーバーユースと定義していますが、ここではその定義をもう少し広げて、ムダな医療のパターンについてお話ししてみたいと思います。

 まずは、メリットよりもデメリットが大きいものです。医療のムダ、と聞いてイメージするのは、このパターンがもっとも一般的でしょう。
 医療行為を行うことには当然何らかのメリットがあるのですが、その際に生じるデメリットも大きいために、結果的にその医療を行うメリットを相殺してしまう、というパターンです。

 第3章でも紹介しますが、頭を打ったときに行うCT(コンピューター断層撮影)検査を例に取りましょう。子どもが頭を打ってしまったときなど、心配になって頭のCT検査を行うことが日本ではよくあるようですが、実際には、頭を打っていても意識に問題がないような場合には、CT検査をしたところでそれ以上の問題が出てこない、ということが検査をする前に分かっていることが多いのです。一方で、CT検査は放射線を使う検査なので、一般的なレントゲン検査(X線検査)よりも被ばくする放射線は強くなります。CT検査で得られるメリットというのが、問題がないことを再確認して安心できるという程度なのに比べると、検査で放射線を浴びることにより子どもの将来のがんの可能性を高めることになる、とはっきり研究から分かっているデメリットがあるので、これはデメリットのほうが大きい医療と言えます。


(第2回終わり、第3回に続く)