室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(99回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)望まない植え込み型除細動器は避ける 米国ホスピス緩和医療学会、米国不整脈学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第99回】

受けたくない医療96【循環器】
望まない植え込み型除細動器は避ける
米国ホスピス緩和医療学会、米国不整脈学会

 米国ホスピス緩和医療学会は、「患者や家族が望まない限りは、植え込み型除細動器(ICD)を留置してはならない」と主張している。除細動器とは、心臓が急に停止した時に、心臓の動きの異常を察知して電気ショックをかけて、心臓の回復を図る装置だ。心臓の近くに電気を発生させる装置を埋め込み、そこから心臓にリードを渡して、不測の事態に備える。身体的にも精神的にも負担になるのは想像に難くない。
 植え込み型除細動器を留置する患者の4分の1は、死亡する前の1週間の間に除細動器が作動している。回復の見込みのない疾病を抱えた患者に対して、除細動器のショックが死亡を結果的に防げていない。むしろ苦痛を与えている面もあり、介助者や家族にとってもストレスを与える結果になっている。
 現時点で除細動器の作動を止めるかどうか、その方針に決まった見解はない。ホスピスの中で方針を持っているのは10%に満たないといわれる。学会は、除細動器の作動を止める方針を固める必要があると指摘する。
 米国不整脈学会は、心不全の重症度を4段階で示す「ニューヨーク心臓協会(NYHA)機能クラス4」の最も重症な患者で、しかも死亡率の高い状態にある場合には、植え込み型除細動器の移植をしてはならないと判断している。これは特に重症の患者で、心室支援装置(※38)や心臓再同期療法(※39)、心臓移植といった治療でさえ適用とならない場合である。

※38 心臓の内部は大きく4つの部屋に分かれている。右側は全身から入った血液を肺に送り込み、左側は肺から入った血液を全身に送り込む役割で、全身および肺から血液を受ける部屋を右心房、左心房と呼び、心臓から血液を送り出す部屋を右心室、左心室と呼ぶ。心室の機能が低下した人に対して、特殊なポンプを使って血液を送り出す機能を代替するのが心室支援装置。
※39 心臓の拍動は、心房と心室がそれぞれ収縮と弛緩を繰り返して起こっている。この収縮と弛緩のリズムを作る電気信号は心房から心室に向けて伝わるが、電気信号に異常が生じると拍動が乱れて血液の循環に支障が出る。心臓再同期療法は、電気信号を人工的に作り出し、拍動を正常化する治療である。

(第99回おわり、第100回へつづく)