室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(25回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)受けたくない医療18【ガン治療】 「分子標的薬」は慎重に使え 米国臨床腫瘍学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第25回】

受けたくない医療18【ガン治療】
「分子標的薬」は慎重に使え
米国臨床腫瘍学会

 「分子標的薬」(※13)はガン治療の主役になっていると言っていいだろう。日本では、肺ガンのイレッサを皮切りに、乳ガンのハーセプチン、大腸ガンのアバスチン、白血病のグリベックなどが普及している。
 もっとも、米国臨床腫瘍学会は分子標的薬の活用には意外に慎重だ。
 「分子標的薬を投与する時には、治療の効果を予測するための生物学的なマーカーを確認しなければならない」と「Choosing Wisely」で記す。使う前に、効くかどうかを必ず検査で確認しろというわけだ。「コンパニオン診断」(※14)と呼ばれる、分子標的薬とコンビで実施する予測のための検査が米国や日本で新たに開発されている。「分子標的薬を使う時にはコンパニオン診断も併せて」という流れは強まっていると言っていい。
 昔ながらの化学療法とは異なり、分子標的薬はガンの特定のターゲットに効く。ガン細胞に特有の生物学的なマーカーを調べることで、どの患者が反応するかがあらかじめ分かる。特定の遺伝子の変化があるかを見ることになる。
 分子標的薬の治療費用が高額である点も重要だと学会は指摘する。治療薬は発売してからの年数が限られ、後発薬がない場合も多い。すべての抗ガン治療と同様に、標的薬治療の有効性を支持する根拠が不十分な場合もあり、リスクが存在していると見るべきだ。潜在的に重大な副作用があり得るほか、他治療と比べて治療効果が低くとどまる可能性もある。
 日本で分子標的薬の治療を受ければ、1カ月で100万円近い医療費用がかかってしまう。ガンになると、効くかもしれない治療があれば「試したい」との思いは出てくるが、効く可能性が低いとあらかじめ分かる場合も増えている。そこは必ず知っておきたいところだ。
 さらに、Choosing Wiselyでは別の注意点として、ガンの治療において分子標的薬を使ってはならない条件も示している。ガンのために身体状態がそもそも低い場合で、「治療効果あり」という根拠のある治療であっても効かないことがある。このほか、そもそも分子標的薬が対象としている病気ではない場合も使ってはならない。 学会によれば、例外もあるという。ガン以外の原因で身体状態が悪かったり、特定の遺伝子変異があると分かっていたりする場合には、分子標的薬を控えなくてもいい。ガン以外の原因で身体状態が悪いならば、ガンそのものはまだ小さく、分子標的薬が効果を発揮する可能性がある。さらに、遺伝子変異から特定の分子標的薬が効くと分かっているのならば、たとえガンで状態が悪くても、ほかの治療を施していなくても、分子標的薬の効果が高いと想定できるので先に使ってもいい。いずれにせよ、患者の生活を妨げないような配慮をしながら治療を進めていく姿勢が欠かせない。

※13 ガンの細胞は、通常の細胞と同じように自らを構成するパーツを作りながら増えている。この増殖に欠かせないパーツを機能不全にするとガン細胞は生きられない。分子標的薬はガンに特有のパーツに効いて、ガンだけを殺す薬剤である。

※14 ガン細胞が必要とするパーツは、個人ごとに少しずつ異なる。分子標的薬がターゲットとするパーツをそもそも持っていないガン細胞もあり、その場合は薬が効かない。そこで、あらかじめパーツを持っているか否かを調べる検査が普及しつつある。薬と組になる仲間(コンパニオン)を探すような検査であるため、「コンパニオン診断」と呼ばれて国内外で注目されつつある。

(第25回おわり、第26回へつづく)

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