室井一辰 医療経済ジャーナリスト

医療経済ジャーナリスト、室井一辰。『絶対に受けたくない無駄な医療』の連載をはじめ、医療経済にまつわる話題をご提供いたします。

(24回)『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)受けたくない医療17【大腸ガン】 大腸ガンの内視鏡検査は10年に1回で十分 米国消化器病学会、米国外科学会

絶対に受けたくない無駄な医療

絶対に受けたくない無駄な医療

【第24回】

受けたくない医療17【大腸ガン】
大腸ガンの内視鏡検査は10年に1回で十分
米国消化器病学会、米国外科学会

 大腸ガンの内視鏡検査を受ける人も増えているだろう。便の検査で潜血が判明した時に、精密検査としておしりから内視鏡を入れて、ガンがないかどうかを調べる。「ポリープがありますね」と言われてひやひやした人もいるかもしれない。ポリープは大腸の中にでるでっぱりで、多くは腺腫性と呼ばれるもの。一部はガン細胞を含む場合もある。ポリープの病理検査を受けたところ、陰性と言われてほっとした経験のある人もいるだろう。
 米国消化器病学会は、「大腸ガンの検診において、平均的なリスクを持つ人については、どんな手段であっても、高性能の大腸内視鏡で陰性と出たならば、その後10年は大腸ガンの検診を繰り返してはならない」と、長期間にわたって再度の検査は不要と強調する。
 学会の説明によると、50歳以上で大腸ガンのリスクが高くない場合には10年間隔が適当だという。これまでの臨床研究によると、高性能の大腸内視鏡を使った検査でガンを発見できなかった場合、ガンのリスクはその後10 年間にわたって低いと分かっている。高性能の大腸内視鏡で正常の結果が出た場合には、いずれの大腸ガン検診についても次に受けるタイミングは10年後でよいと考えられる。
 日本で大腸内視鏡を受けると、かかる費用は1万5000円ほどだろう。毎年受けている人もいるかもしれないが、「ちょっとやりすぎかもしれないな」と考える意味はある。
 学会は「Choosing Wisely」で、正常な人だけではなく、ポリープがあった場合についても項目を設けている。学会は「大腸内視鏡で1㎝未満の腺腫性のポリープが1つか2つ見つかった人で、グレードの高い異形成がなく、しかも完全に切除し切ったならば、最低5年は大腸内視鏡を繰り返す必要はない」と説明する。
 大腸内視鏡の結果によって、次回のタイミングを決めることになるが、根拠に基づいて作られたガイドラインによると、低グレードの異形成の見られる小さな管状の腺腫性のポリープが1つあるいは2つ見られる程度であれば、最初のポリープ切除から5~10年後までは再び大腸内視鏡を受ける必要はない。簡単に言うと、少々のポリープが見つかって、医師に「ガンではありませんね」と言われたような人は何度も受ける必要はない。
 じゃあいつもう一度受ければいいかというと、大腸内視鏡の観察結果でガンに近いと判断された時のほか、家族がガンになったことがあるかどうか、患者がどう希望しているか、内科医師がどう判断しているかを考慮して決めることになる。
 米国外科学会はChoosing Wiselyで、平均余命次第では、大腸ガン検診はそもそもいらなくなるという見方を示している。「大腸ガンの検診に際して、無症状で平均余命が10年を切っており、大腸ガンの家族歴や既往歴がない場合には実施を避けるべきである」というものだ。
 まず、大腸ガンの検診の意義そのものはあると強調する。臨床研究によって死亡率の引き下げが示されたと見ている。「大腸内視鏡検査は、腺腫性ポリープやガンの前駆的な病変を見つけて、切除するきっかけになり、生涯にわたる発病率を抑制できる」と説明する。ただし、実施する意味があるのは、リターンがリスクを上回る場合だ。大腸内視鏡検査を受けた時に、内視鏡を入れることで腸が傷ついたり、検査をする時の麻酔が覚めなかったりといった問題が起こる可能性は否定できない。検査をしたのに事故が起きては本末転倒だ。リスクがリターンを上回ると判断できれば、検診の実施は不適切にもなる。
 大腸内視鏡のリスクは加齢や合併症によって増える。学会は、大腸ガン検診のリスクおよびリターンの割合は個別に判断するよう勧めている。

(第24回おわり、第25回へつづく)