【第17回】
受けたくない医療4 【前立腺ガン】
前立腺ガンにむやみに陽子線治療は行わない
米国放射線腫瘍学会
直木賞作家のなかにし礼さんが、2012年に食道ガンの治療として受けたので有名になった「陽子線治療」。陽子線治療を含めて、ガンに対する「粒子線治療」は期待の分野となっている。
水素原子を放射する陽子線治療、中性子を放射する中性子線治療などバリエーションも増える方向だ。X線を使った従来の放射線治療は、照射した体の表面から奥深くにいくにしたがって効果が弱くなるのに対して、粒子線はある一定の深さで粒子が一挙に吸収されるという特徴がある。このため、ガンだけを狙って治療することが可能だ。
だが、この粒子線治療に「金食い虫」という批判が出ているのも確かだ。現状では、日本における治療費は300万円前後だが、治療費がかかるだけで効果がないという可能性も否定できず、有効性を確認する臨床研究が必須になっている。三菱グループが開発を進めるなど日本企業の出番が大きいだけに、日本勢が効果を証明しようと躍起になっていることも知られている。
ただ、世界の評価はまだまだ厳しいのが実態だ。
米国放射線腫瘍学会は、粒子線治療に期待を示しつつも、積極的な実施には慎重な立場を取る。いわく、「前立腺ガンに対して陽子線治療を行うとしても、臨床研究としてでなければ推奨できない」。
ここで言う臨床研究とは、治療したうえで治療成績を検証したり、治療を受けた患者の状態を正確に記録したりする研究を指している。あくまで治療成績を正しく記録し、効果を検証しなければ広げられないと見ている。それだけ効果が不明確ということだ。
学会は、「前立腺ガンに対する陽子線治療が従来の放射線療法よりも優れていると示す臨床研究の明確な治療成績は出ていない」と説明している。つまり証拠を出せというわけだ。「もしかしたら効果がないかもしれない」となれば日本勢にとっては冷や汗ものだが、患者にとっては効かない治療であれば意味がない。事実として、効果に疑問符も出ているのは知っておくべきだ。
(第17回おわり、第18回へつづく)